業界を巻き込む「ZEF」の取り組みに、脱炭素社会の未来を描く

挑む者たちvol.1

設備設計 信藤邦太

工場が取り組むべきカーボンニュートラルとは何なのか。現在、国が定める評価基準の範囲を超えた新たな概念で、真のゼロエネルギーファクトリー実現を目指す社員がいます。

1873年の創業以来、社会の変化に寄り添い、数々のプロジェクトを手掛けてきた大成建設。連載「挑む者たち」では、日々新しい技術や概念の創出に挑む社員をクローズアップします。
第一回の登場人物は、設備設計のシニア・エンジニア「信藤邦太 」。大成建設が独自に定義した、工場のエネルギー消費量を適正に評価する指標「ZEF=Net Zero Energy Factory(ゼフと呼ぶ。以下省略)」の立役者であり、ZEFは実際の工場に導入され業界でも注目されています。彼はなぜ設備設計の道を選び、ZEFに取り組むことになったのか。そしてこれからどんな未来を目指すのか…。「信藤邦太」の飽くなき挑戦に迫ります。

子どもの頃から建物が好き。数値で評価できる設備設計が性に合った

Q
設計の仕事を志したきっかけは?
A

子どもの頃から建物が好きで、ビルや街ができていく過程に興味がありました。将来は建設業に就職したいと考え、大学では建築学を専攻。空調や電気といった建物を支える設備設計に興味を持ち始めました。学生時代の研究テーマは「ヴァナキュラー建築※1の環境性能評価」。白川郷のような、自然エネルギーを活用した建物の温熱環境やエネルギー性能の評価に取り組んでいました。

Q
なぜ設備設計を目指したのですか?
A

設計は意匠設計、構造設計、設備設計に分かれます。簡単に言うと、意匠設計は建物のデザインを、構造設計は建物を形成する構造を、設備設計は空調や電気、給排水などの機能を設計します。デザインは見る人によって評価が異なり、明確な物差しがない一方、設備設計は数字で定量的に表すことができます。数値で評価できる点が自分の性格に合っていたのだと思います。

Q
大成建設を選んだ理由は?
A

ゼネコンは建物やインフラ施設等を建設する会社なので、実際の施工に寄り添った設備設計ができる点に魅力を感じました。
大学のOBや関係者には大成建設の先輩が多く、学生時代からよく話を聞く機会がありました。「仕事のやりがいは?」と尋ねた際、「仕事の枠にとらわれず、自分のやりたいことを自由にできる」と言われ、この会社では上司から指示されたことをこなすだけではなく、自主性を尊重して働ける風土があると感じました。

オフィスでパソコン作業をする設備設計 信藤邦太。

2015年から手探りで取り組んだZEB

Q
入社後のキャリアは?
A

クリーンルームを備えたエネルギー多消費型の生産施設を中心に担当してきました。複雑な設備を必要とする工場は、設計者にとって非常にやりがいのある仕事です。医薬品工場など難易度の高い案件も経験し、日々誇りを持って取り組んできました。

Q
工場のエネルギー消費量削減が信藤さんのテーマになると思いますが、はじめに取り組んだのはいつからでしょう?
A

日本国内でZEB(ゼブと呼ぶ。以下省略)の定義が定まったのが2015年。私自身もその年から「愛知県環境調査センター・愛知県衛生研究所プロジェクト」や「大成建設技術センター次世代研究開発棟プロジェクト」といった2つの研究施設でZEBに取り組みはじめました。
当時はZEBという言葉はあるものの、実際のプログラムや認証制度が不明瞭な段階で、国の方針も月単位で変わり、度重なる設計変更(契約内容の変更)に苦労しました。

  • ZEB ・・・Net Zero Energy Buildingの略称で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギー収支をゼロにすることを目指した建物のこと。
省エネでエネルギー消費を50%以下に減らし、創エネで同等量を賄うことで、正味ゼロにする仕組みの解説図。

「これでゼロエネルギーと言えるのか」工場長の厳しいひと言ではじまったZEF

Q
評価基準を画一化することで、評価の範囲が限られてしまうのでしょうか?
A

工場の場合、現行のZEB評価対象は工場内の事務所やエントランスの空調設備、倉庫の照明などに限られており、最も多くのエネルギーを消費する生産エリアは評価の対象外でした。

従来のZEB評価範囲。事務所や更衣室など一部のみが対象で、工場の大部分やエネルギー消費が評価対象外であることを示す図。

しかし、この課題に対して大きな転機となったのが2020年からスタートした「OKI本庄工場H1棟プロジェクト」でした。設計時、「ZEB認証を目指して環境配慮への取り組みをアピールしましょう」と提案をしたところ、OKI本庄工場の工場長からは「現状のZEB認証制度では、生産エリアの大部分が評価対象外で、これでゼロエネルギーと言えるのか」と厳しく指摘されました。
当時、工場でのZEB認証を取得することはかなり話題性がありましたが、「そんなことは建設業界以外には通用しない」とはっきり言われてしまいました。
この出来事を通じて、私は「建設業界の常識は世の中の常識ではない」という事実を強く認識し、工場全域を評価対象とする新たなエネルギー評価基準の策定に取り掛かることになります。これが「ZEF」の始まりでした。

Q
ZEFについて教えてください。
A

ZEFとはNet Zero Energy Factoryの略で、ZEBでは評価対象外だった生産エリアの空調や換気なども含め、工場全域を評価対象とする大成建設独自の基準です。

独自のZEF評価範囲。生産設備を除く、生産エリアの空調・照明を含む工場全域を評価対象とすることを示す図。

私がZEFを定義する際、最も重視したのは大成独自の評価基準ではありながら、将来的には業界全体で工場のゼロエネルギー化を進める取り組みにつなげられる点です。そのため、ZEF単独では商標登録を行わず、大成建設のプロジェクトは「グリーンZEF®」という独自の名称をつけて差別化を図りました。
社内各署を調整したうえで、大成建設として2021年の5月にZEFを公表。OKI本庄工場の工場長に指摘を受けた2020年10月頃から、わずか半年という短期間でZEF認証の本格的な適用を開始しました。

工場のエネルギー消費データを知ることが、さらなるエネルギー削減案につながる

Q
現場の声からZEFが生まれたわけですが、つくりあげていくなかで一番大変だったことは?
A

生産エリアを含めた評価に初めて取り組むにあたり、まず必要だったのは基準値(設計した建物がどの程度の省エネルギー性能を持っているかを比較するための指標)の設定でした。既存の工場にヒアリングして実態を把握し、基準値を設定。そこから、具体的にどのようにエネルギーを削減していくかという技術検討に取り組みました。この実態調査こそが非常に重要で、最も大変な作業でした。
ZEF認証を得る過程で、工場のエネルギー情報を共有いただく機会が多く、間接的にお客様を継続してサポートできる点はZEFに携わる大きなやりがいです。通常私たちの仕事では竣工後の建物におけるエネルギーデータを知ることはなく、お客様と長期的につながる機会は多くありません。一方でOKI本庄工場H1棟では、竣工から3年半が経った今も、実際のエネルギー消費を継続的に確認しながら、利用状況の改善やさらなる削減に取り組み続けており、その過程で私もサポートの一端を担うことができています。

OKI本庄工場H1棟の建築写真。
Q
データが共有されることでさらなるエネルギー削減を提案できるのですね
A

自分が設計した工場が、竣工後どのように使われて、どこに改善余地があるのかを知ることは設計者冥利に尽きます。そのデータは次の設計に活かすことができ、最適化が進めばコスト削減にもつながります。今後こうした取り組みが広がれば、工場のエネルギー消費データが蓄積され、基準値の設定やエネルギー・コスト削減の検討に役立つでしょう。

将来的には工場のライフサイクル全体を通したCO2削減を実現。求められる成果以上のチャレンジをしたい

Q
ZEFを広めていくために取り組んでいることなどありますか?
A

公表後には大きな反響をいただき、関係各所で説明会や講演会を行う機会が増えました。OKI本庄工場H1棟の竣工後には、毎日のように見学者が訪れ、カーボンニュートラルに取り組みたいメーカー担当者や学生の皆様など、多くの方々に興味を持っていただけたことは非常に光栄です。学会での論文発表や、建築・環境分野における社外表彰への積極的な応募を通じ、業界に向けても情報をオープンに発信しています。

第2回SDGs建築賞表彰式での集合写真。
Q
今後の展望について聞かせてください
A

まずはZEFを社会に広め、認知して頂きたいです。様々な課題はありますが、ひとつひとつクリアしながら実績を積み上げていくことが大きな目標です。
さらに、現状のZEBやZEFで対象となる“運用段階”でのCO2削減にとどまらず、建材調達や施工、運用、修繕、解体まで含めた建物のライフサイクル全体を通じたCO2削減を目指したいと考えています。

調達、施工、運用、修繕、解体という、建築物のライフサイクル全般においてCO2が排出されるイメージ図。

入社当初と比べて環境は大きく変化し、今はただ設備設計をするだけではありません。さまざまな要求にリアルタイムで柔軟に対応し、独自にZEFへ取り組んだように、求められる以上の成果を残していきたい。その先に必ず良い未来があると確信しています。

Q
大成建設で「地図に残る仕事。」をする信藤さん。個人の想いとして、仕事を通じ、何を残したいですか?
A

私の仕事は、しっかり説明しなければ伝わりにくい内容です。それでも、建物自体が語りかけ、人々が何かを感じ取ってもらえる存在になることを目指しています。「設計で勝負する」とは、そうした建物づくりを目指すことだと強く感じています。

  1. ※1:土地の気候風土、利用可能な資源、人々の生活様式や文化に合わせて、地域住民が伝統的な技法や材料を用いて、住む人々のニーズに応じて自然発生的に形成された建築