東京支店 港区立赤坂中学校等整備工事作業所
幼稚園、小学校、中学校を解体・新築・増築し、一体的に整備する本プロジェクト。体育館やプールを備えた新校舎は、傾斜地を活かした複雑な構造に特徴がある。 当社の総合力を遺憾なく発揮し、「ONE MIND」で工事を円滑に進めてきた現場の軌跡をたどる。
Photographs by Yukiko Koshima
傾斜地を活かした
新時代の校舎新設へ
東京ミッドタウンの北側、緑あふれる檜町公園に隣接した好立地にある港区立赤坂中学校。学校の敷地はもともと、公園から北側の赤坂通りに向かって低くなる傾斜地であり、その高低差は約13mもある。既存中学校校舎は、この傾斜地を擁壁で囲んだ盛土の上に建っており、近年、老朽化が進んでいた。また、児童・生徒数が増加の一途にあることから、港区は、隣接する港区立中之町幼稚園と港区立赤坂小学校との連携強化を図り、「幼・小・中一貫教育」を推進・整備する計画を決定した。
当社のミッションは、擁壁や旧校舎等を解体し、傾斜地を活かした新校舎を新設すること。工事を主導する伊田真司作業所長は「旧体育館を撤去し、盛土を切り崩しながら既存擁壁を解体していくことから作業は始まりました。赤坂通り側に擁壁があり、車道との接道がなかったため、搬入路確保も含め、解体工事段階から、緻密な施工計画/工程を立てることが重要でした」と語る。仮説とシミュレーションから最適解を導き出し、効率性・安全性を追求するのが伊田所長のスタイルだ。現場は、全国に先駆けてウエルネス作業所として稼働中でもある。所員・作業員がより働きやすい環境改善にも取り組みながら、現場の皆が心を一つに、仕上工事の中盤まで進んできた。モットーに「ONE MIND」を掲げる伊田所長のリーダーシップの下、作業所は、これまで多くの山場を乗り越えてきた。
バルコニーのルーバーは、遮光や目隠しを考えて配置。木質素材とアルミを交互に配して、明るく暖かみのある外観に
先を見越した段取り力で
土工事と躯体工事を同時進行
巨大な擁壁を切り崩す土工事は最初に直面した山場だ。
「ここをどう攻めるかが全体の工程にも大きく影響する要衝でした」と今津洋也副所長は振り返る。当初計画では、山留め壁は止水性が高いSMW(ソイルセメント連続壁)工法が予定されていたが、地下水位等を検証し、親杭横矢板工法を提案。掘削と山留を段階的に施工し、徐々に掘削底面を下げていく施工ステップを立案、実施した。「当社は、東京ミッドタウンや近隣のタワーマンションの施工を手掛けており、地下水位の低いこのエリアの地盤特性を把握していました。東京支店建築部技術部と相談し、止水性はないが、SMWと比較して小さな重機[既存幼稚園側歩行者専用道路を通れる重機(25t)]で擁壁解体と山留工事の同時施工が可能な親杭横矢板工法を提案したのです」(伊田所長)。
早瀬崇城工事課長は「親杭横矢板工法に変更したことで、掘削が完了したところから場所打ちコンクリート杭工事を始めることができました。まだ解体工事が残る中、躯体工事にも早期に着手でき、大幅な工期短縮が図れました。また、小さな重機で敷地端部の工事が進められ、安全性の向上にもつながりました」と胸を張る。学校の工事では、プールや給食設備などの設置工事にも時間を要する。山留・土工事で短縮した時間を後工程に回すことで、以降の工事を確実に行う余裕が生まれた。
擁壁解体工事・土工事・山留工事を並行して進める中、通常は最後に手掛ける外構の本設構内道路工事も同時に行った。「赤坂通りへの動線となる構内道路を工事用車両の仮設道路として活用するためです。仮設道路が開通する前は、既存幼稚園裏の区道(歩行者専用道路)を期間限定で仮使用させてもらっていましたが、解体工事完了後、速やかに構内道路をつくったことで、躯体工事にスムーズに移行ができ、かつ工程も先取りできました」(早瀬工事課長)。
先々まで俯瞰した見通しを立て、時に大胆に実行に移す。この段取り力こそが、工事を着実かつ安全に進める源泉だ。
生徒・児童数の増減や、改修・修繕にフレキシブルに対応できるように、均等なスパン割となっている教室エリア
高い技術力を結集した
校舎を支える体育館の施工
新校舎は、都会の限られた土地を有効に使うべく、地下に体育館やプール、給食調理室などを配する計画になっている。この校舎の躯体工事で最大の山場となったのは、地下体育館の上部に設けるトラス鉄骨内蔵のSRC梁の構築だ。25m×40mの無柱大空間の上に5層の鉄骨造がのるため、梁せい3.7mの大梁と最大柱せい3.5mの柱による堅牢な構造となっている。
「柱鉄骨や梁のトラス鉄骨は、重量を確認し、運搬できるサイズに分割して鉄骨工場から運び、現場で各パーツを揚重し組み立てました。そのため、組み立て可能な独自の形状や継ぎ手に変更しました」と早瀬工事課長。さらに、今津副所長は「体育館は2層分が吹き抜けの無柱大空間で、トラス鉄骨の施工に際しては広範囲に支保工を組む必要がありました。そこで、建築総本部デジタルプロダクトセンター(DPC)に協力を仰いで、仮設支保工で地上の鉄骨造全てを支える施工手順の妥当性を確認するとともに、支保工用に組んだ足場をSRC部分の型枠支保工、さらに天井仕上足場に盛り替えられるよう検討し、ムダのない効率的な施工計画/工程を組みました」と説明する。
トラスを組む際には25mの梁につき数カ所の溶接を行うが、溶接による縮みを計算し、厳密に諸条件を設定した。また、躯体自体も、梁と柱の取り合い部分が柱頭拡幅した複雑な形状になっており、全体の精度管理にも万全を期した。「校舎の施工では高い技術力や綿密な精度管理が求められ、その前の擁壁解体の段階では、土木的な知恵も必要とされました。建築のみならず、土木本部・東京支店土木部やDPCの知見を取り入れた〝総合力〞に支えられたと感じています」(伊田所長)。
大きな桜の木を中心に居心地のよいウエルネス作業所の外観
現場のモチベーションもアップ!
人に、環境に優しいウエルネス作業所
2020年2月から当作業所に導入された、健康的で快適な職場環境を提供する「ウエルネス作業所」。設計本部・環境本部・作業所が意見を出し合い、充実のワークスペースが誕生した。
現場事務所に入って最初に目に飛び込むのは、オープンスペースで明るい雰囲気の職長ミーティングスペース。現場作業の要となる職長の休憩やコミュニケーション活性化のためにと伊田所長が最もこだわったエリアだ。2階オフィスエリアでは、現場を見渡せるサンルームが好評で、図面を広げながらの会議にも役立てられている。屋外には、既存樹の桜を中心にベンチやテーブルが配され、気持ちいい光に包まれてリフレッシュしたり、打ち合わせができる。
現場事務所は、高効率な空調システムやLED照明、自然採光など省エネ技術の導入により、52%減の省エネを実現、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)でZEB Ready 認証取得・5段階評価の最高ランク評価を獲得した。人にも環境にも優しい現場事務所だ。
子どもたちや地域に愛される
学校の竣工を目指して
解体・基礎・躯体・仕上へと工事はこれまで順調に進んできた。この後、最後の山場となるのが、赤坂通りをはさんで隣接する赤坂小学校の4階部分と新校舎の2階部分をつなぐ「上空通路」の工事だ。
「交通規制(赤坂通りの通行止め)ができるのは一晩だけ。そこで、あらかじめ敷地内で躯体フレームとなる2つのユニットの地組みと橋脚の施工を進め、当日は、2つのユニットを大型クレーンで吊り上げ、一晩で接合作業を完了させます」(今津副所長)。
2022年6月には一期工事が完了し、9月からは子どもたちの新校舎への初登校が実現する予定だ。その後、二期工事となる付属棟建設を進めて、2023年8月竣工を目指す。
「安全安心、着実に進めるのが最大の使命。ONE MINDで力を合わせて、長く愛される校舎を完成させたいと思います」(伊田所長)。
新校舎は地域活動施設や備蓄倉庫も設置され、コミュニティ拠点ともなるため、地域の期待も大きい。その期待に応えるべく、現場が一つになって全力を尽くしていく。
※撮影時のみマスクを外しました
(2021年11月4日取材)
地域から期待を集める校舎整備プロジェクト。高難易度な工事の安全な完遂を!
港区企画経営部施設課営繕係 一岡 優作様
工事概要
工事名称 | 港区立赤坂中学校等整備工事 |
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発注者 |
港区 |
設計・監理者 | 佐藤・ユニバァサル・乃村企業体 |
施工者 | 当社・谷沢・大勝建設共同企業体 |
工期 | 2019年3月13日~2023年8月11日 |
敷地面積 | 13,773.17m2 |
建築面積 | 3,295.53m2 |
建物用途 | 中学校、小学校(増築)、幼稚園 |
構造 |
SRC造+S造/地下1階 地上6階 塔屋1階 |
所在地 |
東京都港区赤坂 |