横浜支店 横浜環状南線桂台トンネル工事作業所
日本最大級のシールドマシンが横浜環状南線桂台トンネル上下線を掘進中だ。昨年9月、折り返し地点の回転立坑に到達し、巨大シールドマシンの移動・回転を無事成功させた。現在、残り半分、下り線の掘進工事に向けて慎重に準備を進めている。抜群のチームワークを誇る作業所を訪ねた。
Photographs by Yukiko Koshima
地域経済の活性化や防災に
資する一大プロジェクト
地下の回転立坑に続く長い仮設階段を降りていくと、驚くほど巨大なシールドマシンがその威容を現す。桂台トンネル上下線それぞれ約1.3㎞を、このシールドマシンが往復掘進するのだ。上り線の掘削は完了し、シールドマシンは、この春からの下り線掘進に向けて再発進の準備作業に入っている。
本工事でこれまで最も難しかったのが、この巨大シールドマシンのUターン、180度の移動・回転だ。外径15.28mの大断面は、東京外環自動車道で導入されているシールドマシンに次ぐ大きさで、移動・回転に成功したシールドマシンとしては、日本最大となる。
約20年間で8カ所のトンネル工事に従事し、うち3カ所で今回のようなシールドマシンの回転作業を経験してきた松村英樹作業所長は「これほどの大断面は私も初めて。移動・回転時はもちろん、掘進開始から現在まで、心地よい緊張感に包まれながら取り組んでいます」と語る。
本工事は、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の一部である。横浜横須賀道路の釡利谷ジャンクションと国道1号を結ぶ横浜環状南線、長さ約8.9㎞のうち、桂台トンネル区間にシールドトンネルを構築するほか、関連するさまざまな施設を築く。
福島謙一統括所長は、この工事の意義について「横浜港から首都圏内陸部までの所要時間を大幅に短縮し、地域経済の活性化に貢献します。災害時の緊急輸送路としての活用や渋滞緩和によるCO2削減効果も期待されています」と説明する。
下り線の掘削に向けて準備が進む回転立坑の様子
現場考案の新技術で
巨大マシンをUターン
着工は2015年4月。これまで10基の橋梁下部工の施工、ボックスカルバートの設置、調整池の土工、2つの立坑といった諸工事を約5年間かけて進めてきた。2020年7月からは、750t級と200t級のクローラクレーン2台を使用して、大断面シールドマシンの組み立てを開始。本工事の核となる日本最大級の断面掘進がスタートしたのは、2021年1月のことである。
シールドマシン後方の運転室に配されたモニタリングシステムで、場内webカメラによる映像や掘進状況など各種データをリアルタイムで収集分析。固い地盤を慎重に掘り進めた。
「現場は閑静な住宅街。その地下を掘進するため、環境や安全面には特段の配慮をしています」と松村所長。発進ヤードには35dB減音できる大型の防音ハウスを設置。シールドマシンは、昼夜施工で1日最長約12m掘進する能力を有するが、振動や騒音に配慮し、最長10m以内に留めている。また掘削に伴って排出される1日約3000㎥もの土砂は、ベルトコンベヤーに載せ、他工区で整備済みのトンネル坑内を通過して、約1.8㎞先の釡利谷ジャンクションの土砂仮置場までダイレクトに運搬する。これにより地上を走る土砂運搬用トラックの台数も大幅に削減している。
掘進開始から約2年を経てシールドマシンは回転立坑に到達。昨年9月、いよいよ本工事前半のクライマックスである、巨大シールドマシンの移動・回転の工程を迎えた。
Uターンには、鋼球を用いた従来装置ではなく、ソリやジャッキを用いた現場考案の新たな装置を導入した。山田紀之作業所長は「極めて短時間で移動・回転ができる特殊な回転装置で、特許も申請済みです。初挑戦なので、据え付け精度や稼働時の摩擦抵抗の測定、荷重の分散など、事前に何度も検証。おかげで無事に成功を収めました。移動・回転自体にかかる時間はわずか8時間ほど。工期短縮はもちろん、コストダウンにもつながります。今後、当社の回転式シールド工法のスタンダードとなることを期待しています」と紹介する。
これが日本最大級のシールドマシンだ!
桂台トンネル工事で使用されているのは、トンネル断面に合わせて設計、組み立てられたシールドマシン。外径15.28m、全長11.85m、重量2,350tは国内最大級。カッターヘッドと呼ばれる進行方向先端部分を回転させて土を掘り、掘り出された土砂はコンベヤーで後方へ運ぶ。マシンが前進したところで、掘削を一旦停止し、シールド内でセグメント(トンネル内壁) をリング状に組み立て、トンネルを構築していく。地域交流の一環として、近隣の横浜市栄区の小学生約1,500人から愛称を募集したところ、189作品の応募があり、その中から「モグるん」に決定。2020年10月に命名式を行った。
上り線到達時の記念写真
上り線以上の難工事を
作業所一丸となって完遂する
回転立坑での移動・回転の成功に安堵している暇は、この作業所にはない。間もなくスタートする下り線約1.3㎞の掘進は、上り線以上に難しい工事となる。先行して構築した上り線トンネルとの最小離隔がわずか38㎝という超近接施工となるからだ。超近接施工が見込まれる箇所は全区間の3分の1弱、約400mもの長さにわたって続く。「シールドマシンの側面に離隔をリアルタイムで計測する電磁波レーダー探査装置を搭載し、マシンと先行トンネルとの位置関係を正確に把握しながら掘り進めます。私たちが上り線で収集してきた情報や数値データなど、経験値も十分に活かせるでしょう。さらに技術センターや土木本部土木技術部・機械部・土木設計部、支店土木部など関連部署のバックアップも得ています。当社の高い土木技術と現場の知恵の合わせ技で施工を完遂します」と松村所長は胸を張る。
大現場ならではの課題をICTで克服
若手の育成にも注力する
若手が多い現場は明るい雰囲気で、コミュニケーションは良好だ。福島統括所長はこう語る。
「とにかく現場が広いので、主要な施工拠点にサテライト事務所を設置。Wi-Fi環境を整備して、会議や打ち合わせはほぼ全てリモートで行い、移動時間を減らす工夫をしています。LINE WORKSやウェアラブルカメラを他現場に先駆けて導入するなど、新たなツールは積極的に取り入れ、効率性を高めながら情報共有を図っています」。
中堅・若手社員はそれぞれ多様な工種の業務を担っているが、話を聞くと「全員一丸となって工事に邁進している。風通しが良く、自由に話ができる職場だと日々実感している」と口々に現場の一体感について語る。皆一様に見せる笑顔が、作業所の明るい雰囲気とコミュニケーションの良さを象徴している。
自身、シールドトンネルや山岳トンネル、橋梁など、さまざまな工事を経験してきた福島統括所長は「これほどバラエティに富んだ工種を経験できる現場はまれ。若手社員ができるだけ複数の工種を学べる人員配置を心掛けています。豊富な経験を積み、自分自身と当社の未来に活かしてもらいたい」と話す。
「来る下り線工事では、若手に力を発揮してもらうべく、責任ある仕事を任せていきたい」と松村所長。「さらなるチャレンジスピリットを発揮し、知恵と経験、チームワークを駆使して、この大規模工事を最後まで安全に完遂します」と話しながら見上げるその目の奥には、1.3㎞先の立坑に到達したシールドマシンの姿が映じている。
(2023年3月1日取材。役職表記は4月1日以降のものです)
日本一の仕事ができることが誇りです
田中辰憲 工事主任(右)、田代裕基 工事係
個性あふれる仲間から大きな刺激を受けています
川上航平 工事係
多様な工種を経験でき、毎日がとても新鮮です!
森田悠聖 工事係
工事概要
工事名称 | 横浜環状南線桂台トンネル工事 |
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発注者・設計者 |
東日本高速道路(株)関東支社 |
施工者 | 当社・フジタ・錢高特定建設工事共同企業体 |
工期 | 2015年4月23日~2024年5月19日 |
工事内容 | シールドトンネル2,640m、トンネル立坑2カ所、橋梁下部工10基、切盛土工、開削ボックス他 |
施工場所 | 横浜市金沢区釡利谷から同市栄区桂台西 |