関東支店 南摩ダム本体建設工事作業所
栃木県鹿沼市で、岩石で築堤した堤体の上流部表面にコンクリートスラブ(フェイススラブ)を打設して遮水する、日本最大のCFRD型式のダム建設が進行中だ。建機の自動運転をはじめとするDXを積極的に導入し、技術の継承と若手技術者育成にも注力する、熱気あふれるダム建設の作業所を訪ねた。
Photographs by Yukiko Koshima
水資源機構が進める思川(おもいがわ)
開発事業の中核となるダム本体工事を推進
東武新鹿沼駅より車で約10分、新しく開通した県道のトンネルを抜け、明るくなった車窓から見えたのは、巨大な「南摩ダム本体建設工事」の看板と、眼下に広がるダム工事現場である。
本工事を含む水資源機構・思川開発事業の実施計画調査は1969年に始まった。同事業は、思川支川の南摩川にダムを建設して、洪水を防ぐとともに、栃木、茨城、埼玉、千葉の各県の水道事業者に水道用水を供給し、河川の正常な機能を維持することが目的だ。計画から半世紀以上の時を経て、2020年、ついに同事業の中核施設であるダム本体工事が、当社施工で始まった。
当社は、貯水池の水をせき止める「堤体」のほか、上流側のフェイススラブを支える「プリンス」、貯水池から水を取り入れる「取水塔」、洪水時の洪水調整を行う「洪水吐き」などの各種構造物を構築。コンクリートを「バッチャープラント」で現地製造し、盛り立てに使用する岩石を「原石山」から採取することでダムを完成させる。
南摩ダム全景
長年の知見と最新技術を融合した
日本最大のCFRDダム
長井健二作業所長は「南摩ダムは、日本で極めてまれなCFRD*(コンクリート表面遮水型ロックフィルダム)型式のダムです。そこに大成ならではの独自技術を駆使している点が特徴です」と話す。
ダムには大きく分けて、コンクリートで堤体を構築するコンクリートダムと、土や岩石で盛り立てるロックフィルダムがある。CFRDは岩石で盛り立てた堤体の上流側を板状のコンクリート(フェイススラブ)で遮水する、コンクリートとロックフィルのハイブリッド型式のダムだ。使用するコンクリート量が圧倒的に少ないため、環境負荷低減に優れ、コスト縮減、工期短縮のメリットがある。
- *CFRD:Concrete Face Rockfill Dam
当社は、1988年、インドネシアのチラタダム建設において、初めてCFRDを施工。その後、日本国内でのCFRD建設に携わった経験がある萩原潤工事次長は「薄いスラブで遮水するには高い技術力とノウハウが必要です。当社はチラタのプロジェクト以降、CFRDの技術確立に力を入れてきました」と説明する。2000年代初頭には、岐阜県・徳山ダムの上流二次締切、岡山県・苫田鞍部ダムを建設し、長くCFRDの技術知見を積み上げてきた。「南摩ダムは、約40年にわたって継承され、磨かれてきた知見と最新の技術革新を高いレベルで融合した当社のCFRDの集大成。堤高86.5m、堤頂長359.7m、堤体積約240万m3は、CFRD型式のダムとしては日本最大です」と長井所長は説明する。フェイススラブの施工には、移動式型枠「スリップフォーム」を導入。斜度29度もの急勾配に、コンクリートを均質に高精度で打設する技術は、当社独自のもの。「土木本部土木技術部や技術センター、スリップフォームの設計技術を持つ成和リニューアルワークス(株)、スリップフォームを操作する機械設備技術を持つ大成ロテック(株)など、グループ企業の力を結集し、オール大成グループで臨んでいます」と長井所長は強調する。
当社独自のスリップフォームで
フェイススラブを打設
遮水の要のフェイススラブは、走行レール上を移動式型枠がウインチで牽引され、連続的に施工可能なスリップフォームで打設する。実機による約8m長の試験施工では、最新技術を導入したスリップフォームにより、1時間に2mの速度で順調にコンクリートを打ち上げた。急勾配においても生コンクリートがだれることも、型枠が浮き上がることもなく、高品質なフェイススラブを計画通りに打設。11月に始まる本工事では、最大長さ約156mを3昼夜連続で、継ぎ目なく連続的に打設する。スリップフォームを横に移動して24回打設を繰り返して完成する。
建設DXで品質、生産性、安全性の向上を図る
同作業所のもう一つの大きな特徴が、建設DXに積極的である点だ。ダムの永久堅固と安泰を祈願する定礎式では、自動運転の無人ダンプトラックとブルドーザーが、ダム本体の地中に神聖な礎石を埋納した。
当社は2013年から自律型や遠隔操作型の建機「T-iROBOⓇ」の開発を進めており、本工事ではこれら複数を組み合わせて協調運転させるシステム「T-iCraftⓇ」を技術提案、導入した。他にも、現場の状況をリアルタイムで反映する「T-iDigitalⓇ Field」、生コンクリートの施工情報を可視化する「T-CIMⓇ/Concrete」といったさまざまなICT技術を駆使している。
岡谷豊工事次長は「T-CIM/Concreteは、バッチャープラントでのコンクリート配合から現場での打設状況まで見える化を可能にします。特にフェイススラブの土台を担うプリンス工事で、安定したコンクリートを打設する力強い支えとなっています」と話す。これから始まるフェイススラブ工事では、急斜面でもだれることない高品質なコンクリート打設が必須。配合、打設、充填状況を細かく見極めながら施工する必要がある。コンクリートの状態を常に可視化する本システムは、大いに活躍してくれそうだ。
「変革をもたらしてこそのDX。T-iDigital FieldやCIMなど、さまざまなシステムから得られるデータを分析・活用して、建設現場の生産性改革を実現していきたい。都心からほど近い、大規模なダム工事現場で当社のDX技術をアピールするのも重要です」と長井所長は語る。
ダム施工の未来のかたち~T-iCraft~
ダムのような広大な敷地の単調な作業で、DXは生産性向上の大きな切り札だ。南摩ダムでは、T-iCraft上で指定した施工エリア内を、T-iROBOのブルドーザー2台と振動ローラ2台が協調運転しながら、「敷き均し」と「転圧」を自動で行った。
技術の継承と技術者の育成に力を注ぐ
多様な工種があり、規模も大きなこの現場では、1日平均約400人もの作業員が働いており、安全対策が最優先課題だ。北村俊紀工事次長は「的確な指示を、誤りなく速やかに、全関係者に伝達することが安全性向上につながります。もともとはスマホの電波が届かない場所でしたが、至る所にWi-Fiを設置して、広大な作業所のどこにいても、指示が伝わり、連携できる体制を整えています。同時に、打ち合わせは可能な限りリモートで行い、移動に伴う時間と労力の軽減を心掛けています」と言う。
若手の育成も大きなテーマ。同作業所の社員約20人のうち半数が30歳未満である。長井所長は「技術の継承と技術者の育成」を重要視し、「CFRDという経験者の少ない工法を次世代に継承することは私たちの責務」と語る。「岩石を採取して、その品質を判定、締め固めて造成する〝岩に関わる技術〞と、長きにわたって収縮せず、ひび割れせず、型枠を外してもだれることない、〝コンクリートの配合や打設の技術〞、この2つを土木技術者としてしっかり身に付け、次へつないでほしい」と表情を引き締める。
11月からは本工事のクライマックスであるフェイススラブの打設がいよいよスタート。2024年6月に開始を予定している試験湛水を経て、南摩ダムは治水・利水等に活用される。
近年、全国各地で豪雨災害が多発しており、命と財産を守るダム建設という大きな社会的責任を胸に、日々の業務に邁進する社員の意識とモチベーションは自ずと高い。「高品質なフェイススラブの打設を完遂することが現在の最重要課題。将来的に当社のため、そしてこの国土のため、CFRD型式のダム建設という希少な知見は、必ず役に立つはずです」そう語る所長の脳裏には、すでに満々と水をたたえた南摩ダムの姿が映じている。
(2023年6月28日取材)
初めての工法、難しい構造物に果敢に挑戦!
金木洵太朗 課長代理(左)、土井康平 主任
経験と専門力を活かし、より高品質なダムを!
杉本成司 課長代理(左)、居上靖弘 主任
同期の結束力で密にサポートし合います!
房木大地 主任(左)、石原和輝 主任
工事概要
工事名称 | 南摩ダム本体建設工事 |
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発注者 |
独立行政法人 水資源機構 |
施工者 | 当社 |
工期 | 2020年12月8日~2025年3月31日 |
規模 | 堤高86.5m、堤頂長359.7m、堤体積約240万m3 |
主要工事 | 堤体基礎掘削約100万m3、原石山掘削約340万m3、コンクリート打設約14万m3 |
所在地 | 栃木県鹿沼市上南摩町 |