東北支店 (仮称)青森市アリーナ及び青い森セントラルパーク等整備運営事業工事作業所
※内容は2023年7月13日時点のものです豪雪地帯として知られる青森県青森市。同市街地で、冬期でもスポーツやイベントを開催できる運動施設建設と公園整備が同時進行中だ。来年3月の竣工を目指して工事を進める作業所を訪ねた。
Photographs by Seiya Kawamoto
市民の大きな期待を受けて進む
豪雪地帯でのプロジェクト
青森市の市街地に位置する「青い森セントラルパーク」は、真冬、静かに降り続く雪に覆われ、辺り一面白一色となる。同市の過去30年の年間累積降雪量は5mを超え、最深積雪は例年1m以上、国内はもちろん、世界の都市の中でも屈指の豪雪地帯と言われている。
この青い森セントラルパークの西部で今、総合体育館の建設と広場、駐車場など公園整備を行うビッグプロジェクトが進行中だ。深谷孝作業所長は「冬期の施工は、雪との戦い。毎朝、作業車両の通り道は重機で、躯体工事の現場内は人力作業で除雪します。それでもお昼には再び積もっている」と話しつつ、「着工前には市長をはじめ近隣の町会の皆さんから激励の言葉をいただきました。雪深い冬場でもスポーツやイベントを楽しみ、市民が交流できる施設の完成を、地域の皆さんは心待ちにしています。期待に応えるべく、一丸となって工事に取り組んでいます」とその口調は熱っぽい。
冬期の施工を安全・高品質に進めるには、丁寧な除雪作業が重要だ。今年2月撮影。
〝青森ファースト〞の陣容で
設計・施工・運営まで当社が主導
本プロジェクトには、設計・施工から、引き渡し後15年間の運営管理まで、当社が代表を務めるコンソーシアム11社が一貫して行うDBO*とPark-PFIのスキームが適用されている。特別目的会社(SPC)の統括管理責任者を務める東北支店青森営業所の梨本嘉勝営業所長はこう説明する。
「設計JVは、隈研吾建築都市設計事務所と当社設計本部の国立競技場設計時のメンバーが再結集し、そこに青森市内の設計会社を加えた陣容です。施工にも地元建設会社が入り、運営には青森市内の企業が数多く参画しています。設計から運営に至るまで、〝青森ファースト〞のチーム編成とし、青森県産の木材(スギ)を多用するなど、地元青森の風土・文化を尊重している点も元発注者の青森市に高く評価されました」。
DBO方式なので、設計・施工のパートナーシップが重要なのは当然だが、とりわけこの作業所では両者の結束が強固である。角田拓也作業所長は「設計段階から施工側のアイデアや技術的な見解を設計本部に細かく伝えてきました。着工後も月2〜3回、本社の設計のメンバーが現場を訪れ、密な意見交換を行いながら、品質の向上を図っています」と紹介する。
- *Design Build Operateの略。自治体など公共機関が資金調達を負担し、設計・施工・運営を民間に委託する、PFIに類似した事業方式
現場と設計の強力タッグで
高品質な施工を実現!
意匠美と機能美が両立した建物を築くため、設計チームのメンバーは、足繁く現場を訪れ、施工検証用BIMを使って、施工チームと検討を重ねている。「設計者のポリシーを施工側にきちんと伝え、図面の解釈に齟齬が生じないよう議論し尽くすことで、施工精度も高まり、より良いものづくりができます」(堀川)
「冬期の施工の過酷さを、現場に来て実感しました。施工チームと熱を共有し、竣工まで二人三脚で仕事を完遂します」(高岩)
複数のエリアを有機的に結合し
多様なスポーツ、イベントに対応
敷地内の施設・設備は、それぞれ有機的に結びついて、スポーツを通じた健康づくりや市民の交流、防災拠点としての役割を果たす。
「メインアリーナ」は、最大で5000人の観客を収容でき、Bリーグのプロ公式試合や2026年開催の「第80回国民スポーツ大会」の卓球競技会場になる予定だ。このメインアリーナともう一つの中核施設である「サブアリーナ」の間には、リンゴかごをモチーフとした木格子の大屋根が架けられ、「ヨリドマ(よりどころ+土間)」と呼ばれる屋根付きの半屋外空間として整備される。2つのアリーナとヨリドマ、そして広場を一体的に利用することで、多様なイベントに対応可能となり、季節を問わずにぎわいを創出する。他にも雪や雨を防ぐ北国特有の屋根付き歩行路「コミセ」、津軽弁で「かっちょ」と呼ばれる伝統的な防雪柵、県内最大面積を誇るキッズルーム、多目的ルームなどを建設中だ。多くの施設で木を多用し、温もりや親しみやすさが演出されている点も特徴だ。
足場で埋め尽くされたメインアリーナ内部は壮観
難易度の高い無柱大空間は
オール大成の総合力で!
着工から1年3カ月。順調に施工が進んでいるが、「これまで特に難度が高かったのは、今年4月から行った、メインアリーナの屋根を支える鉄骨トラスの施工です」と角田所長は振り返る。
大量の降雪に耐えられる無柱大空間を実現するために採用されたのは、強度の高いダブルトラス工法である。現場のヤードで高さ4m、幅2m、長さ9mのユニットを組み上げて、タワークレーンで約20m揚重。支保工のジャッキ上に設置し、精確に接合する。二次元的なシングルトラスと比べ、ダブルトラス工法は、地上での鉄骨ブロックのユニット化も、支保工上でのユニット同士の接合も三次元的で、より緻密な施工精度が要求される。
トラスの建方が完了した後の今年6月、大空間建築のクライマックスともいえるジャッキダウン工事が始まった。それまでジャッキに支えられていた荷重を、ダブルトラス全体で負担しなければならず、大空間であるほど、自重によるたわみは大きくなる。ジャッキダウンは4回に分けて慎重に実施され、荷重に偏りはないか、変位は許容範囲内か……極めて厳密な確認が繰り返された。鉄骨の音に耳を澄ませ、緊張とともに見守ったという深谷所長は「結果、構造計算通り、ミリ単位の精度で施工でき、ほぼ解析通りの結果となりました」と話す。
作業所では、設計本部が作成したBIMを施工管理にフル活用しながらフロントローディングと精度の向上に努めている。「メインアリーナのトラス施工は、着手前に仕上げを含めた干渉チェックを行い、万全に準備した上で臨みました」と角田所長。深谷所長は「構造設計、デジタルプロダクトセンター(DPC)、作業所業務推進センター(CSPC)、東北支店に新しくできた作業所支援部署である東北フロントローディング&プロセスサポートチーム(TFLP)の協力も受け、難関のトラス施工を無事終えました」とオール大成の総合力を強調する。
地域貢献、若手育成にも注力し安全に、
高品質の建物を完成する
市民の大きな期待を集めるこのプロジェクトでは、施工期間中も地域住民との交流を重ねている。工藤英治郎副所長は「『未来のあおもりの街コンクール』を実施し、全640作品(青森市内の小学生の絵・作文)を仮囲いに展示したり、小学生の建設車両乗車体験や高校生のものづくり体験といった多彩なイベントを積極的に行い、毎回好評をいただいています。地元テレビで紹介されることもあり、注目度の高い現場で働いていることが、所員のモチベーションアップにもつながっています」と説明する。
令和入社組も含め、若手社員が多い作業所には、瑞々しい活気がみなぎっている。「その分、人材教育も大切な課題です」と強調する深谷所長は、毎朝30分、若手社員を数人ずつのグループに分け、「すみずみパトロール」と称する現場の見回りを行う。「後工程を考慮した効率的な資材配置など、細かな点ひとつ取っても実践的な学びになり、今後の糧になる」と若手社員は口を揃える。
7月末には、いよいよメインアリーナとサブアリーナを結ぶ大屋根の施工が始まる。「ヨリドマの大屋根は、国立競技場建設で採用されたものと同種の、木材と鉄骨を組み合わせたハイブリッド木構造です。メインアリーナのダブルトラス同様、難度の高い施工なので、仕上げまでを見据えた緻密な施工計画のもと、関係部署と協力しながら安全かつ高品質に工事を完遂します」と深谷所長は決意を新たにする。
竣工予定は来年3月末。やがて来る雪の季節の先、暖かな春の訪れとともに、大勢の市民が憩い、交わり、笑顔でスポーツに親しむ施設は完成する。
(2023年7月13日取材)
新しい施工方法を経験し、達成感を味わいました
石母田 真似 工事係
初めて尽くしの現場はやりがい十分です!
天谷 友洋 工事係
細やかな心配りで地域の期待に応えます
田村 仁 事務係
工事概要
工事名称 | (仮称)青森市アリーナ及び青い森セントラルパーク等整備運営事業 |
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発注者 | 青森ひと創りサポート(株)(元発注者:青森市) |
設計者 | 隈・当社・川島設計共同企業体 |
監理者 | 隈・川島工事監理共同企業体 |
施工者 | 当社・藤本特定建設工事共同企業体 |
工期 | 2022年4月1日~2024年3月31日 |
建物概要 | アリーナ本体(公募対象公園施設を除く) 敷地面積51,547.12m2 建築面積9,792.71m2 延べ面積12,063.17m2 |
構造 | RC造+S造 |
所在地 | 青森県青森市 |