横浜支店 横浜文化体育館再整備事業に係るメインアリーナ建設業務作業所

緻密な計画から生まれる、スポーツとエンタメの新拠点緻密な計画から生まれる、スポーツとエンタメの新拠点

スポーツや格闘技の大会、コンサートなどで親しまれた横浜文化体育館が、「横浜BUNTAI」として生まれ変わる。効率よく、安全で作業しやすい計画に工夫を凝らし、快適な職場環境づくりに力を注ぐ作業所を訪ねた。

Photographs by Yukiko Koshima

関内駅周辺のまちづくりを牽引する
期待のプロジェクト

 開港以来、横浜の発展を担ってきた関内駅周辺地区。JR関内駅北側の吉田橋関門跡を挟んで、港側に広がる関内地区と関門跡の北側の関外地区の結節点となるエリアだ。現在、横浜市都心臨海部再生マスタープランに基づき、「国際的な産学連携」「観光・集客」の2つのテーマにスポーツ・健康が連携したまちづくりを進めている。

 佐藤靖昌作業所長は「私たちは、リーディングプロジェクトである横浜文化体育館の建て替え工事を担っています。〝文体〞の愛称で親しまれてきた施設で、そのレガシーを継承する建設事業です」と説明する。〝文体〞は、横浜開港100年祭の記念事業として1962年5月に誕生。国際的なスポーツ競技大会やプロレス興行、地元の学校の競技大会、国内外のアーティストのライブなど数々のイベントが開かれ、地元では子どもから大人まで長く愛されてきた施設だった。

 開館から約60年、市は文体の再整備を決定。文体跡地と隣接地に、スポーツとエンターテインメントの新拠点となるメインアリーナ「横浜BUNTAI」と、サブアリーナの「横浜武道館」(他社施工)の2棟を建設する計画の下、当社JVは2022年1月、メインアリーナの工事をスタートさせた。

完成予想図・外観: 左のメインアリーナの外装は、帆船の帆のイメージ。
モアレを生じさせる外壁とパンチングメタル(孔あき鋼板)のダブルスキンが特徴だ。右の建物は他社施工の別途工事で、ホテルを含む民間収益施設となる
*線や点が重なり合ったときに生じる縞やマダラの模様

 銀白色の外観が印象的な建物は3階建てで、内部の劇場型アリーナは観客席約5000席を擁する。発注者は、当社も参画する特別目的会社(SPC)。設計JVにも設計本部が加わっており、設計・施工・運営のほとんどの段階で当社社員が深く関わる注目のプロジェクトだ。

 作業所は「横浜市のシンボルとなるようなアリーナ建設を目指す!」をスローガンに掲げている。「防音や省エネなど横浜市の要求水準を達成する品質管理を行う。SPCの信頼に応えるべく密なコミュニケーションを図る。繁華街の中心に位置する作業場の第三者災害防止に努める。この3つを基本方針に工事に臨んでいます」と佐藤所長は話す。

完成予想図・内観:①スポーツの国際大会や全国大会、プロバスケットボールのリーグ試合などに利用される
②コンサートの際はステージを設け、その前面に観客席を配置することができる

大型ビジョン(右側)を備えたメインアリーナ。施工中は唯一の工事ヤードになった。資材が整然と置かれている。

敷地いっぱいに建つ躯体
内側から大屋根を〝建て逃げ〞

 2023年10月上旬現在の出来高はおよそ8割。三角トラスによる約63mの大スパン構造の屋根はほぼ架構し終わっている。

 本現場の最大の特徴は、敷地いっぱいに建物が計画されていることだ。しかも周辺は、JR関内駅から徒歩約5分の繁華街。建物の外にヤードを設ける余裕はない。その影響を特に受けるのが、大屋根のトラス架構だった。

中央のメインアリーナを観客席がぐるりと囲む。1階は移動観客席、2階は固定観客席、3階は個室やVIP観客席となっている

 通常なら、RCの躯体を構築した後、建物の外に置いた鉄骨をクレーンで上げて順々に架構していくものだが、ここはヤードがないため、クレーンも鉄骨も建物の内部に置いて建て方を進めるしかない。しかし、全ての梁を内側から架構するのは不可能であり、最後はクレーンを外に出し、上から蓋をするように併合することになる。問題は、どのタイミングで、どこからクレーンを出すか、だった。

 当初はRC躯体の一部の施工を後回しにして開口を設け、そこからクレーンを外に出す方法が検討されていた。ただ、この方法では、残った部分のRC工事と屋根の仕上げ工事が同時進行することになり、工程的にも安全面でもリスクが生じる。

 着工前の2021年春に着任した佐藤所長は、綿密な検証と計画でこの難題を乗り切った。「何とか躯体のダメ(未完成部分)を残さずにできないかと考えました。そこで目を付けたのが、東南側にある本設の搬出入口です。クレーンのサイズと搬出入口の寸法を比較したところ、高さの離隔は4m。ギリギリで安全に外へ出せることが分かりました。これで晴れてRC躯体を完成させてから屋根の鉄骨工事に着手できたのです」と振り返る。

 大屋根は、西側から東側へ向け、架構しては移動していく「建て逃げ工法」で施工。さらに鉄骨トラス梁はユニット化して、時間とコストの削減を図った。建物内の1階で鉄骨をトラス状に地組みし、設備配管やキャットウォークなども組み込んでユニット化する。次に、これをクレーンで揚重してベント(支柱)上に載せる。3本のベントに4ユニットを載せて連結した後、レール上をスライドさせてベントを移動。この一連の作業を4日サイクルで繰り返していった。

 大石岳史工事課長は「全体工期の約半分を残した2022年12月時点で内装工事まで進み、作業所事務所を建物内に移設しました。これは施工計画が緻密だったからこそできたことです」と胸を張る。

大屋根の施工は西から東方向への「建て逃げ工法」。①地組みしたユニットを内部に設置したクレーンで揚重していく。②クレーンが1階東側観客席の際まできたら反転させて揚重を続け、③最後は東南側の搬出入口からクレーンを出して外側から施工した
鉄骨をトラス状に地組みした状態
鉄骨をトラス状に地組みした状態
建て逃げの進捗に合わせて3本のベントをレールに載せてスライドさせる。既製品の足場材を利用して手間とコストを削減した。

〝誰もが働きやすい現場〞
〝選ばれる現場〞を目指して

 一方、全体の工程を管理する上で最も苦労したのは、RC躯体工事だった。RC工事は、鉄筋工や型枠大工など多くの人員が必要なため、労務の手配が工事進捗のカギとなる。佐藤所長は「スムーズに工程を進捗させるため、専門工事業者に私自身が直接電話をして、作業員を募ったこともありました」と苦労を明かす。

 「あそこの現場で働きたい」と、作業員から〝選ばれる作業所〞になるにはどうしたらよいか。佐藤所長のモットーは「誰もが働きやすい環境を整える」ことだ。最も重視しているのは、「無理をせずに工事を進められるステップを追求すること」。RC躯体を完成させてから屋根に着手したのも、この考えが根底にある。もう一つは、「快適な休憩スペースや温水洗浄便座の設置など、みんなが気持ちよく働ける環境を整えること」。作業所の幸福度アップを探求する実証実験にも参画している。

 働きやすい環境が整っていれば、必ずいい職人が集まってくれる。それが経験に基づく佐藤所長の信念だ。

2階の体育室。完成後は市民スポーツに開放され、大会開催時にはウォーミングアップルームに。施工中は休憩室として利用している。
2階の体育室。完成後は市民スポーツに開放され、大会開催時にはウォーミングアップルームに。施工中は休憩室として利用している。

作業所の幸福度アップへ!
横浜市立大学との実証実験に参画

 現在、当社は、横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター(センター長:武部貴則特別教授)とともに、建築・まちづくりでウェルビーイングの具現化を目指す共創活動を展開している。その一環として、本作業所も「イネーブリング・ファクター(健康と幸福双方を高める可能性のある因子)」をリサーチする実証実験に参画。作業員が過ごす「たそがれテラス」や「リチャージガーデン」の効果測定や、作業員の家族や近隣小学生を招いて現場見学会を実施した。その結果、前者では、ノーヘルゾーンがあることでリラックスできる効果が認められ、後者では家族に仕事ぶりを見てもらえる喜びや満足感、子どもたちに建設の面白さを伝えることで仕事への誇りややりがいを得られることが分かった。作業所の幸福度アップは就労環境づくりの重要な視点のひとつ。同作業所の成果は、今後全国の作業所運営にもフィードバックされる予定だ。

見学会では職長会と所員が一緒になって、子どもたちに建設の仕事の面白さを伝えた
見学会では職長会と所員が一緒になって、子どもたちに建設の仕事の面白さを伝えた

社内外との良好な連携が
スムーズな施工の秘訣

 大石課長は「建築本部や支店建築部のサポートを受けながら、安全で効率のよい施工方法を追求しました。鉄骨トラス梁のユニット化では、材料を前倒しで入手する必要があります。先行して監理JVに図面の承認をもらうなど、ご協力いただいています」と話す。現場の生産性向上は、社内外のさまざまな関係者との連携の賜物だ。

 発注者であるSPCの期待にも連携プレーで応えてきた。「エンターテインメントとスポーツの両方の利用にふさわしい施設にしたいというSPCの要望に対し、アリーナ建築に精通している設計JVと協力して、モックアップや実物サンプルを提示したり、分科会を開催するなど、しっかり納得いただきながら工事を進められたことが非常によかった」と佐藤所長。

外装ダブルスキンのモックアップで、ライトアップの様子を確認。外側の孔あき鋼板と、透けて見える下地のドットによって、モアレ状のゆらぎを演出する

 ここまで順調に進んだ秘訣を聞くと、「限られた敷地での鉄骨建方において、早期に設計図を理解して問題点を把握し、施工計画の立案を行ったこと。加えてBIMによる『見える化』で専門工事業者を含めた全員に計画内容を理解してもらった点が大きい」と語る。

 工事は2024年1月末に竣工引き渡しを迎える。「無理なく着実に。そして互いに思いやる気持ちを持って、若手、中堅、ベテランと、現場全体の連携プレーで竣工のその日まで邁進します」と佐藤所長は力を込めた。

横浜BUNTAIの開業予定は2024年4月。文体のレガシーを受け継ぐ新たな拠点が、関内駅周辺地区ににぎわいを呼び込むことだろう。

(2023年10月3日取材)

Voice ~現場のために今できることを~

“若手卒業”に向けて自分で決める心構えを

桑田 匠 工事係

 外装と屋根工事を担当しています。手戻りなく工程を進めるには、職人さんたちが自分の作業の順番を理解していることが大切。きちんと説明するのはもちろん、時間外にも一緒に出掛けたりしてコミュニケーションを図り、よい関係を築いています。入社4年目、いつまでも“若手”ではいられないので、先輩や上司に相談しながら、自分で判断できる力を身に付けたいと思っています。

Voice ~現場のために今できることを~

日々建ち上がっていく現場とともに成長を実感

山口 智実 工事係

 入社2年目で、基礎工事のときからこの現場に参加しています。こうして建ち上がった姿を見るととてもうれしいです。担当はダブルスキンの外装。13万個のドットのテンプレートは、実は手作業であけたものです。職人さんと一緒に試行錯誤しながらがんばりました。作業所での勉強会では丁寧に指導いただけますし、女性の先輩や職人さんもいるので、相談しやすく、のびのび仕事をしています。

工事概要

工事名称 横浜文化体育館再整備事業に係るメインアリーナ建設業務
発注者

(株)YOKOHAMA文体

設計者 梓設計・アーキボックス・当社設計共同企業体
監理者 梓設計・アーキボックス監理共同企業体
施工者 当社・渡辺組建設共同企業体
工期 2022年1月1日~2024年1月31日
建築面積 7,997.46m2
延床面積 15,462.95m2
構造 RC・S造
階数 地上3階、塔屋1階
所在地 神奈川県横浜市中区