東京支店 東京都江戸東京博物館(4)改修工事作業所
東京を代表する文化施設である「東京都江戸東京博物館」。竣工から約30年を経て、当社施工による大規模改修工事が進んでいる。
後世に残すべき素晴らしい建築物を、より美しく、安全によみがえらせるため、経験と知恵と工夫で挑戦する作業所を訪ねた。
Photographs by Seiya Kawamoto
江戸・東京400年の歴史と
文化を伝える観光スポット
JR両国駅のホームに降り立つと、大相撲の聖地、両国国技館の隣に、銀色に輝く大型足場に囲まれた建物が目に飛び込んでくる。巨大な宇宙船を思わせる近未来的なこの建物は、当社が全面改修工事を進める「東京都江戸東京博物館(通称江戸博)」である。
江戸博は「江戸東京の歴史と文化を振り返り、未来の都市と生活を考える場」として1993年に開館した。元の設計者は、メタボリズム*の提唱者として知られる菊竹清訓(きよのり)氏。急勾配の大屋根や建物全体を支える巨大な4本の柱など、ユニークな外観に特徴がある。菊竹氏曰く「高さ約62.2mはかつての江戸城天守閣の高さを意識した」そうだ。
*1950年代末に始まる建築運動。菊竹氏や黒川紀章氏など若手建築家らが、社会や人口、様式等の変化に合わせて新陳代謝(メタボリズム)する都市や建築を提唱した
今回、設備機器の一斉更新を機に、斜め屋根の葺き替えや高床式の軒天井部分の耐震化を含めた内外装工事、外構工事などの全面改修工事が計画され、その全てを当社が担うこととなった。
「所長として総指揮を執るのも、これほど大規模でダイナミックな建物の改修に携わるのも今回が初めて」という塩見和範作業所長。本格的な施工が始まる約1カ月前に作業所入りし、「足場の組み方から資材の揚重方法、斜め屋根の葺き替えに至るまで、どう行えば最も効率的で安全にできるか、みんなで知恵を絞りました。難しいからこそ工夫のしがいがある。心底わくわくしましたね」と笑顔で語る。
塩見所長を支える調子秀恭工事課長は東京都現代美術館の改修工事も経験しているが、「今回の江戸博の形状は想像を超える複雑さ。足場の仮設も膨大で、いかに緻密な計画を立てるかが、その後の工程の肝でした」と振り返る。
江戸・東京の魅力を体感できる「江戸博」
江戸博は、徳川家康の江戸入府から現代に至る約400年を中心に、江戸時代の暮らしや盛り場の風景、文明開化の東京、市民文化や娯楽の様子など多数のジオラマで当時を体感できる。5・6階の常設展示室は「江戸ゾーン」「東京ゾーン」の2つに分け、実物大の日本橋(北側半分)や中村座(歌舞伎の芝居小屋)を再現。日本橋は実際に渡ることもできる。国内外から多く観覧者を集める人気の博物館だ。改修工事で2022年4月から休館中だが、その間も「バーチャル・ミュージアム」や館外での活動を継続中だ。
工夫を凝らした計画と技術で
博物館特有の課題を乗り越える
工事は内外装を同時に実施。まず立ちはだかったのが、傾斜角23度から最大33度にも達する大屋根の急勾配だ。さらに博物館内に湿気は禁物。貴重な文化財、大型の展示物は基礎部分を残して移設・保管しているが、葺き替え時であっても、雨を建物内に入れることは許されない。天気予報を注視しながら、順次古い屋根材を剥がし、速やかに防水シートを張り、断熱材、仕上げ材を重ねていく。傾斜のきつい高所作業のため、落下対策として3mピッチでパイプを組み、作業員はここに安全帯を掛けて作業できるようにした。
外壁の補修や塗装は、屋上部分から垂直にゴンドラを下ろして行うが、これも一筋縄にはいかない。「斜めの屋根から、どうすればまっすぐ吊り下げられるか、東京支店建築部技術部技術室に構造検討をしてもらい、屋根の傾斜を踏まえたオリジナル治具を考案しました。水平部も既存のゴンドラレールを利用し、うまく対応できました」と塩見所長は胸を張る。
内装工事でも特殊な屋根形状が施工の難度を高めた。電気や空調、ダクトなどの更新には、斜めの天井をめくる必要があるが、5階の展示室は2層吹き抜けの大空間で、天井までの足場をどう組むのが正解か、頭を悩ませた。
「現在、足場の資材は非常に高騰し、不足しています。資材を最小限に抑え、なおかつ迅速に施工しなければなりません」と内装工事を統括する守屋智仁工事次長は説明する。たどり着いた答えが、天井の形状に合わせた可動式ローリング足場の導入だった。電動で移動させながら、少しずつ天井の施工を行う。これなら足場の物量は圧倒的に少なく済む。
博物館には火気も厳禁だ。天井を張り替える際も、通常は溶接するところ、既存の躯体(鉄骨)を利用し、ビスとボルトで止める「無火気工法」で進めていく。塩見所長は「火災の危険がなく、長年建物を支えてきた鉄骨を熱で傷めることもない。手間も時間もかかりますが、これが改修工事に適したベストの方法です」と言う。
クライマックスは、3階広場の仕上げ工事用のステージ足場の組み立てだ。2023年4月から組み始め、8月に西側半分の仮設を完了した。4本の巨大な柱をびっしり取り囲むように組まれた足場は、近未来建築を思わせる壮観さだが、実はここでも効率化とコスト削減に挑戦している。足場の間隔を広めにとって資材を極力減らすとともに、トラス梁を左右に渡して構造を頑強にしているのだ。この結果、フォークリフトの通行も可能となり、資材の運搬が容易になった。この後、軒天井の押出成形セメント板を撤去し、アルミパネルと膜天井による軽量化を図る。耐震性が強化され、より明るく、美しくよみがえる。もちろん無火気工法で仕上げていく予定だ。
現場の安全・安心は
作業員ファーストの実践から
現場は、東を清澄通りと都営大江戸線、西を両国国技館、南をJR、北を学校群に囲まれている。安全対策の徹底は至上命令だ。また、作業所では災害対策にも力を入れ、地元の本所消防署と合同で防災訓練に取り組んでいる。
「100年前の関東大震災時、本所地域は火災で多数の被災者を出しています。その歴史や文化財のある博物館という特性から、着工前に署に相談したところ『そういうことであれば訓練をお手伝いしましょう』とご提案がありました。3カ月に1度の定期的な訓練により所員、作業員の防災意識やリテラシーがぐっと高まっています」と塩見所長。
さらに塩見所長は「安全の根底にあるのはチームワーク」だと強調する。「社員同士のコミュニケーションはもちろん、私自身は『作業員ファースト』を掲げて、職長や作業員約350人の働きやすさに心を砕き、一体感醸成に努めています」。職長会もロゴマークを作成したり、自主的に近隣の清掃を行うなど、活動に結束の強さが見て取れる。
当社の改修工事は2025年に完了し、展示工事を経た後、江戸博は再び国内外の人たちの前に、より靭(つよ)く美しい姿で現れる。
塩見所長は、「建物の改修は課題も工夫のしどころも千差万別で、本当にやりがいがある。後世に優れた建築物を継承することは、環境にも優しく、非常に意義深い仕事です。江戸博が今後の当社改修工事の良きモデルとなるよう、竣工まで絶対安全に、そして高い品質の仕事を続けていきます」と力を込めた。
(2023年12月26日取材)
大空間の内装工事ならではのスキルを活かす
内藤 久嗣 工事次長
工事概要
工事名称 | 東京都江戸東京博物館(4)改修工事 |
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発注者 |
東京都 |
設計・監理 | (株)プランテック(建築工事)、(株)森村設計(設備) |
施工者 | 当社 |
工期 | 2022年12月16日~2025年2月28日 |
建築面積 | 17,628.76m2 |
延床面積 | 51,367.13m2 |
構造 | S+SRC+RC造 |
階数 | 地下2階・地上7階 |
所在地 | 東京都墨田区 |