九州支店 鹿児島東西道路シールド工事作業所
地元の懸案だった渋滞緩和を目指す鹿児島東西道路シールドトンネル。
南九州特有のシラス地盤、都市部での狭隘な敷地での立坑築造など、数々の課題を乗り越えながらシールドトンネル完遂を目指す作業所を訪ねた。
Photographs by Seiya Kawamoto
シールド工事の技術を結集し、
地域の課題解消へ
鹿児島市街地は、朝夕の交通渋滞が深刻で、平日朝の混雑割合は全国1位*1だ。その主な要因は特有の地形的制約にある。鹿児島市は、三方をシラス台地に囲まれた平野部に位置し、市街地に至る幹線道路の数が限られている。特に3つの高速道路の結節点に当たる鹿児島ICと市街地間に車両が集中。慢性的な渋滞を起こしてきた。そこで国土交通省九州地方整備局では、鹿児島ICと市街地を結ぶ全長3.4kmの「鹿児島東西道路」を計画。すでに一部区間は開通し、目下進められているのが、当社JVが担う約2.3kmに及ぶシールドトンネル工事だ。
*1 平成27年全国道路・街路交通情勢調査
橋本諭作業所長は本工事の意義をこう語る。「トンネル開通による渋滞解消に市民の大きな期待が集まっています。さらには九州初のシールド工法による道路トンネルとあって、周辺自治体からの注目も高い。地域の期待や注目に応えられるよう、安全かつ着実に工事を進めている真っ最中です」。
水に弱く崩れやすいシラス地盤を大断面のシールドマシンで掘削する工事は、国内で前例がない。「今回の工事は当社のシールド工事の技術力やノウハウを盛り込んだ技術提案が評価され、設計段階から施工者が参画するECI*2方式にて受注しました。全国各地でシールド工事に携わってきた精鋭が集まり、土木本部土木設計部・土木技術部、技術センターと連携し、当社の技術を結集して臨んでいます」と橋本所長。
*2 Early Contractor Involvementの略で、設計段階からゼネコンが参画し、技術協力を行う発注方式のこと
交通量の多い都市部に
立坑を築造する工夫の数々
シラス台地のシールドトンネル貫通という日本で初めての挑戦に向け、2020年3月に着工。市内のメインストリートの一つ、中洲通りでシールドマシン発進基地の立坑を築くことからスタートした。
常田和哉工事次長は「中洲通りの交通を阻害しないよう、中央分離帯に立坑を築造しました。外径11.3mのシールドマシンに対し、開口部は5.8mしかとれません。そこで、分解したマシンの胴部を横向きに降ろして組み立て、直角に回転させる『回転組立施工』を実施しました」と説明する。20回近く行う移動・回転には造船などに使われるエアキャスター工法を採用した。「ベアリングなどの従来工法は摩擦係数が高く、損傷リスクもある。その点、エアキャスターは実績こそ少ないものの、超重量に耐え、安全性、施工性ともに秀でています」と常田次長。
マシン組み立てを終えた8月には、立坑を覆う高さ14m、全長約170mの防音ハウスを建設した。工事規模に比してコンパクトなサイズだが、さまざまな工夫が凝らされ、業界の注目度も高いと橋本所長は胸を張る。「中は2層の立体構造です。ベルトコンベアで土砂ピットまで搬送された土砂を、2階に設置されたバックホウで1階に待機しているダンプに積み下ろし、一方通行で運び出します」。さらに交通負荷軽減の対策にも万全を期している。
「本掘進が始まれば、1日300台ものダンプが稼働します。交通ビッグデータと3Dシミュレーションを組み合わせた渋滞予測システムも新開発し、ダンプの搬出口の選定や運搬ルート策定に活かします」。
土地の条件に合わせた
独自の掘進計画
本工事では、設備がコンパクトに配置できる「泥土圧シールド工法」を採用。掘削した土砂をマシンの先端で泥土に変換し、その圧力で切羽を安定させて掘進する。スムーズな掘進にはシラス土に適度な流動性をもたせることが重要だと大小田(おおこだ)洋祐工事課長は語る。「当社独自の『シールド総合診断システム』で土圧をモニタリング・可視化し、最適な状態を維持しています。また、土壌改良の添加材もエリアに合わせて選定しました。通常は気泡材を使うことが多いのですが、土被りが小さい市街地や坑口部分では、泡が地上に出てくるリスクを考えて加泥材を注入します。一方、山岳部は気泡材を使って、排土量を抑える計画です」。
市街地を抜けると、トンネルは東雲川調整池の直下を通る。そこには100本に及ぶ地中障害物(擁壁を支える基礎杭)が待ち受けている。
「シールドマシンによる地中障害物の直接切削はよくありますが、これだけの量は稀なので、事前検討が重要です。小型シールドマシンと模擬杭、模擬土層を用いた実証実験を行い、切削状況、ビット損傷等を確認しました。交換せずに掘削できるビットの長さや杭が確実に切断できる掘進速度を割り出し、機械トラブルや擁壁への影響を未然に防ぎます。さらに地盤改良しながら掘削する計画です」と大小田課長は話す。
これら掘進計画と並行し、現在、マシンが到達を目指すトンネル坑口の坑門工も進んでいる。坑口は急傾斜地崩壊危険区域に指定される崖地のふもとに位置する。崖上は住宅地で、横には既設のトンネルもある。そのため、万全を期して詳細な土質調査を追加し、施工方法を見直したと常田次長は説明する。「上空からのレーザースキャンで得た3次元点群データを基に検証し、法面がより安定するように1.2mの鋼管杭を建て込み、擁壁を追加することにしました。急傾斜地という特殊な作業条件であるため、周囲の安全に配慮しながら工事を進めています」。
最新のシールド技術で、
未来に続く道を拓く
初期掘進*3は、2023年11月からスタート。4月現在で約53m進み、段取り替えを経て2度目の初期掘進を行い、8月末に本掘進*4に突入する予定だ。シールド工法の最先端を行く本作業所は、トンネル工事の安全対策でもトップランナーを目指す。
「安全対策が必要な全ての項目でダブルセーフティーを徹底した上、シールド現場に多い〝三大挟まれリスク〞への対策として、資材運搬用車両、セグメント供給装置、セグメント組立エレクターの3台は、人や物を感知したら自動停止する機構を組み込む予定です」と大小田課長。
橋本所長は現場のモチベーション向上や環境整備にも力を入れていると語る。「若手社員から現場改善や工法のアイデアを募り、挑戦できる風土醸成に努めています。また、〝きれいな仕事環境〞を提供することも、将来の担い手確保や現場で働く人々の安全・健康を守る上で大切です。その一環として、材料メーカーと共同で粉塵抑制効果が高い土砂の固化材を開発しました。社員・作業員の健康管理に加え、周辺の環境負荷低減にも役立てたいと考えています」。
本現場では、数々の新たな施工法にも挑んでおり、その過程で得た技術的知見は論文にして発表している。「シールド工事の進化に少しでも貢献したい」(橋本所長)との強い思いからだという。
夏からは約1年をかけてシラス地盤の地中深くを掘り進めていく。作業所の一人ひとりが課せられた任務を果たしたその先には、未来に続く新たな道が形づくられているはずだ。
- *3 電源設備や土砂運搬装置などをマシン後方のトンネル坑内に設置しながら掘進する初期段階の掘進のこと
- *4 装置や設備の準備完了後の本格的な掘進のこと
(2024年4月22日取材)
広報活動にも注力! 工事のことがよく分かる
インフォメーションセンターを開設
防音ハウス近くのインフォメーションセンターには、ジオラマ、シールドマシン電動模型、立坑内のライブ画面、VR体験コーナーなどがあり、工事内容や施工技術について見学、体感ができる。すでに多くの人が訪れており、関心の高さがうかがえる。VR体験コーナー(写真)では、専用のゴーグルを着用し、頭や手を動かしながら仮想空間で立坑内やシールドマシン内部を体感。シールドトンネルの迫力を楽しめると、大人から子どもまで大人気だ!
西川 健太郎 工事係
岡田 明 工事係
竹内 直弥 工事係
花井 了 工事係
岩下 晶子 事務係
工事概要
工事名称 | 鹿児島3号東西道路シールドトンネル(下り線)新設工事 |
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発注者 |
国土交通省九州地方整備局 |
設計者 | (元設計)パシフィックコンサルタンツ(株)、 (詳細設計)中央復建コンサルタンツ(株)、日本シビックコンサルタント(株) |
施工者 |
当社・大豊特定建設工事共同企業体 |
工事内容 |
シールド工2,319m、立坑工2,542m3、構造物撤去工他 |
工期 | 2020年3月18日~2024年9月30日 |
所在地 | 鹿児島県鹿児島市田上地内~同上荒田地内 |