横浜支店 横須賀市新市立病院建設工事作業所
神奈川県横須賀市で、地域の医療ニーズに応える市立病院の移転新築工事が進んでいる。
安全・安心で、働きやすい病院を実現するため、医療従事者の発想やニーズを取り込んで工事を遂行する作業所を訪ねた。
Photographs by Yukiko Koshima
市立病院の移転新築で
安心の医療環境を実現する
横須賀市の東南端、久里浜港から1㎞ほど西に位置するのどかな海辺のエリアで横須賀市新市立病院の完成が近づいている。市内中心部にある横須賀市立うわまち病院の老朽化に伴う移転新築工事で、新たな立地は緑豊かな神明公園の一部で、周囲には小中学校もある。一方で、高度医療を提供できる病院施設が少ないエリアでもあり、地域医療の充実が課題となっていた。新病院は災害拠点病院として機能し、高度救命救急医療を強化する計画で、地域医療全体の質の向上も図る方針だ。
小川嗣雄作業所長は、本プロジェクトの意義と現状をこう語る。「24時間365日の救急医療、幅広い診療科、最先端の医療設備を備えたフルスペックの病院の誕生に、地域住民の期待も大きいと聞いています。28診療科、450床、救命救急センター、ヘリポートを備えた大規模病院なので、工事の安全・環境対策を伝える住民説明会や見学会などを丁寧に行ってきました。また、2025年3月1日の開院に向け、22カ月間の短工期で着実に遂行するために、事前の準備・計画を徹底したフロントローディング体制で進めてきました」。
「病院モノ決め工程」で
医療従事者のニーズに応える
2021年3月に契約後、21カ月の実施設計期間を経て、病院本棟は2023年1月に着工。2024年11月の竣工を目指す。
「病院の建設は医師、看護師、検査技師などの医療従事者の皆さんの意見を反映させることが肝要です。そのため実施設計期間から施工図スタッフを常駐させて設計と同時に施工図の作図を進め、着工3カ月前に総合図を完成させました。その総合図をもとに、診療室の配置から病室のベッド位置、照明や電源など細部に至るまで28診療科ごとに確認・修正を行う『総合図確認会』を着工2カ月前からスタートしました」。そう話す小川所長は、これまで県立病院や医療センターなど大規模病院を数々手掛け、患者や医療従事者の満足度が高い病院建設に力を尽くしてきた。
また、今回の工期の場合、手戻りは決して許されない。そのため、メインの工事工程と並行して、「モノ決め工程表」を作成。医療機器工程、備品・移転工程も事前に緻密に組み立てて臨んでいる。
堅牢な基礎を速やかに築く
2022年9月から始まった解体工事では想定外の事態に直面した。
「神明公園のグラウンドの地中から基礎スラブが出てきました。第二次大戦期、ここには旧日本軍の倉庫があったようです。戦後に公園が整備されたのですが、基礎スラブはそのまま残され、今回の解体工事で出てきたのです」と小川所長は振り返る。
地中約3mに埋まった基礎スラブは約1万m2で、その撤去に際し約3万m3の土を掘り起こす必要があった。本体工事着工までわずか1カ月しかなかったため、愛媛や埼玉から大型重機を手配して急ピッチで撤去作業を実施。何とか予定通り年明け1月からの着工に漕ぎつけ、山留め・土工事が始まった。
「海が近いことから、基礎工事では地中連続壁を構築して止水対策を施しました。海側の駐車場の半分近くが津波ハザードマップの警戒区域にあたるので、実施設計時に1階床レベルの変更を提案して掘削土で50㎝程度の盛土も行いました。結果的に排出土が減り、工期短縮にもつながりました」と小川所長。
既製杭122本を打ち込む杭工事では、支持地盤が海に向かうほど深くなり、最大で約30mの高低差があることから、地質調査資料や設計図書の確認に加え、抵抗値を逐次測定しながら慎重に杭打ちを進めた。
緻密な計画と工程管理で
高効率・高品質な施工を!
基礎躯体完成後に着手した地上躯体は、一気に組み上げられるS造だ。「病院に多いRC造は1階ずつ組み上げるため、その分工期がかかります。しかし今回はS造なので7階まで一気に組み上げられました。作業効率を上げるため、実施設計時に鉄骨の建方計画を作成して設計者と共有し、最適な部材形状、接合方法、部材重量を提案しました。現在は、各階の仕上げと外装工事を同時に進めています。外装工事が完了した部分から順次ボリュームのある内装工事に着手するため、外装工事が全体工程の鍵です。そこで、極力全範囲を同時に短期間で施工できるよう汎用性の高い部材、シンプルな納まりを専門工事業者と徹底的に検討し、実施設計にフィードバックしました。その甲斐あって、実際の施工では無理なく着実に高い精度を実現できています」と小川所長は説明する。同時進行で一気に作業を行う分、人員数も資機材の搬入量も膨大になるが、事前の緻密な計画と厳密な工程管理が奏功し、円滑施工が推進できている。
作業効率向上と品質確保の工夫は他にもある。「躯体構築のため200tと350tのクローラークレーンを合計3台同時投入しました。フック数の効率を上げることで、資材搬入のスピードアップが図れました」と永井俊明工事課長は話す。さらに床スラブ以外の全ての躯体にプレキャストコンクリートを採用。床コンクリートは鉄筋を一部先組みした鋼製デッキプレートを導入することで、現場の配筋作業を半分近くまで削減できた。
「外装工事も、3工区に分けて別会社が分担する形にしました。建物も大規模で外構も広大ですが、県内の主要な基幹業者に参画してもらい優秀な職長が揃ったおかげで、ここまで順調に進んできました」と木田和宜工事課長は話す。
働く人の満足度が高く、
地域で長く愛される病院に
本体工事と並行して進めてきた総合図確認会で詳細が決定すると、建築本部デジタルプロダクトセンターの協力を得て、院内のBIMモデルを作成。そこからVRを作成して、病院関係者が院内空間をバーチャル体感できるVR体験会を実施した。また内装工事の一部が進んだ段階で、病室の先行ルーム(モデルルーム)を施工し、病院関係者と一緒に最終確認を行った。
実証確認を徹底した理由について、小川所長は「実際の空間で作業してみないと分からないことがありますし、言葉や図面では埋められない認識の差が生じることもあります。こうした齟齬をなくすことが最大の目的ですが、確認を丁寧に重ねることで納得感も高まると考えています」と説明する。「現場で活躍する医療従事者の声をしっかり取り入れ、一番働きやすい空間を追求する」という小川所長のモットーは、この取り組みにも表れている。
「横須賀市民をはじめさまざまな関係者の皆さんの期待に応えるべく、作業所一丸となって安全に工事を遂行し、地域に長く愛される病院を完成させたい」と、小川所長は今年11月の竣工に向けて、そう強い決意を示した。
(2024年6月17日取材)
縄田 陸 工事係
山口 智実 工事係
中曽根 隆樹 工事係
小室 颯太 工事係
工事概要
工事名称 | 横須賀市新市立病院建設工事 |
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発注者 |
横須賀市 |
設計 | (株)伊藤喜三郎建築研究所 |
監理 |
日建設計コンストラクション・マネジメント(株) |
施工者 |
当社・堀・宇内特定建設工事共同企業体 |
工期 | 2021年3月31日~2024年11月14日 |
建築面積 |
7,907.69m2 |
延床面積 |
38,259.08m2 |
構造 |
S造 |
階数 |
地上7階、塔屋1階 |
所在地 | 神奈川県横須賀市 |