中部支店 トラスコ中山(株)プラネット愛知新築工事作業所

徹底した合理化と「人の輪」で巨大物流センターを構築徹底した合理化と「人の輪」で巨大物流センターを構築

当社は今、北名古屋市の郊外に巨大な物流センターを建設している。
徹底した部材のプレキャスト化や職長会との「人の輪」で、着々と工事を進める作業所を訪ねた。

Photographs by Kawamoto Seiya

約100万アイテムを備える
シリーズ最大の物流センター

 JR名古屋駅から北西に約10㎞。車で北名古屋市に入ると、倉庫や物流センターが立ち並ぶ一帯が広がり、そこにひときわ大きな建設中の建屋が目の前に現れた。機械工具卸売商社トラスコ中山株式会社の29カ所目の物流センターとなる「プラネット愛知」だ。

完成予想図
完成予想図:オフホワイトの外壁のところどころに、発注者のコーポレートカラーがアクセントとして配された美しい外観。
北側(手前)中央部分が事務所エリアとなり、吹き抜けのエントランスやオフィス、食堂や託児所などが設けられる

 発注者のトラスコ中山は、プロツール(工場用副資材)を「必要な時」に「必要なモノ」を「必要なだけ」届けることをモットーに、全国の物流センターに大量の在庫を保有している。プラネット愛知ではさらに、在庫アイテム数をこれまでのおよそ2倍の約100万アイテムに拡大する計画で、このボリュームに対応するための建屋の延床面積は、約9万m2近くにも及ぶ。

 当社はこれまでにプラネットシリーズの施工を3件手掛けており、沼澤満作業所長はこの現場の前にプラネット南関東・厚木支店(2020年1月竣工)工事を担当。「これまでの当社の実績が評価されて受注につながったと思っています。今回の物件はプラネットシリーズの中でも最大規模であり、お客様にとって社運をかけたプロジェクト。しっかりと期待に応えたいと考えています」と意欲を表す。

スラブ後打ち施工で
天候に左右されず、品質も確保

 建物は4階建てで、形状は東西に長く、短手は約83m、長手は約226mにもなる。構造は、柱がRC造で梁がS造の複合構造「ユニーク構法」。基礎免震を主体として、一部に柱頭免震を施す免震構造が採用されている。

図2
建屋は南北83m×東西226mと横に長く、南側は敷地境界との離隔が少ない。北西に自走式駐車場、西側にコーキング剤などを保管する倉庫がある

 今回の工事は、工期が非常にタイトで、普通に躯体構築を進めたのでは間に合わない。着工前の2023年4月に着任した沼澤所長は、「施工計画にさまざまな工夫を凝らした」と語る。「建設業の2024年問題を見越して、とにかく省力化して現場での作業を減らすことを考えました」。

 ポイントは、徹底したプレキャスト(PCa)化だ。沼澤所長は「中でも工期短縮に大きな効果を上げたのがPCaのRC柱を用いるユニーク構法をさらに合理化した『スラブ後打ち施工』です」と言う。

 通常のユニーク構法の施工手順はまず床スラブのコンクリートを打ち、その上にRC柱を立てて鉄骨梁を組み、デッキを敷いてスラブのコンクリートを打ち…と繰り返していく。しかし、雨天でコンクリート打設が延期されると、次工程の柱を立てることができないため、遅延につながりがちだった。

 「マテハン機器を設置する物流施設は『スラブが命』とも言われ、床の平滑性や平坦性が重視されることから、コンクリートの扱いがデリケート。少しでも雨が降りそうなときは、打設を見合わせるのが一般的です。そこを何とか天候に左右されずに工程を進め、しかもスラブの品質を確保できる方法はないものか、と考えました」。沼澤所長は打開策を求めて設計本部構造設計部に相談し、建方を先行してスラブコンクリートの打設を後回しにする「スラブ後打ち施工」を考案。柱のパネルゾーン(仕口部分)だけにコンクリートを打設して柱梁を取り付け、その上にデッキプレートを設置してから下階のスラブコンクリートを打設する手順とした。

*マテリアルハンドリングの略。物流・製造現場の業務の自動化・効率化に寄与する機械・設備のこと

柱のパネルゾーンだけ仕口コンクリートを打ち、PCa柱を立てた。柱頭には仕口柱建方を取り付ける。スラブコンクリートがないので、斜めサポートは梁にボルト留め
柱のパネルゾーンだけ仕口コンクリートを打ち、PCa柱を立てた。柱頭には仕口柱建方を取り付ける。スラブコンクリートがないので、斜めサポートは梁にボルト留め

 この方法により「建方サイクルは従来の順打ち工法と比べて6日間も短縮可能となり、マテハン機器設置に最適な高品質の床ができあがりました」と沼澤所長は胸を張る。

スラブ後打ち施工により高品質の床ができあがり、最新鋭のマテハン機器(別途工事)が導入される予定だ(右は完成予想図)
スラブ後打ち施工により高品質の床ができあがり、最新鋭のマテハン機器(別途工事)が導入される予定だ(右は完成予想図)

 免震装置まわりの施工については、当社のPC工場や構造設計部と連携。基礎免震では「免震上部基礎のハーフPCa化」、柱頭免震ではベースプレートを省く「免震ベースプレートレス」に取り組んだ。いずれもPCaの強みである精度の安定性を活かし、省力化と工程短縮を実現するもの。免震ベースプレートレスは特許出願中だ。

免震ベースプレートレスを図った柱頭免震(左)、上部基礎をハーフPCa化した地下の免震装置(右)
免震ベースプレートレスを図った柱頭免震(左)、上部基礎をハーフPCa化した地下の免震装置(右)

中央から外へ向かう
独自の建て逃げ工法

 工事ステップでは、1階、2階、3階と平面ごとに躯体構築を進めていく通常の工法ではなく、ブロックごとに最上階まで建てる「建て逃げ工法」を採用した。全体を4工区に分割し、工区ごとに、中央から外側へ向けて3つのブロックを順番に施工していく。各工区が、1ブロックの建方を屋上まで終えてからクレーンを移動して(建て逃げ)、次のブロックに着手するのだ。

 沼澤所長いわく、この工法を採用した理由は2つ。「1つは、中央部分に事務所エリアがあり、内装に時間がかかることから、中央部分を先行したかったため。もう1つは、いわゆる〝ダメ(未完成部分)〞を残さないためです」。

 南側は敷地境界との距離が近く、躯体の外側にクレーンを配置することはできない。そうした場合、通常は内側にクレーンを入れて建て逃げとするが、クレーンの出口をダメとして最後まで残さなければいけない。「機材や作業員を再び手配する手間を考えると、後工事は避けたかったのです」と沼澤所長は説明する。

 1工区を3ブロックに分けて中央から東西へ進んでいけば、南側もクレーンが中に閉じ込められずに済む。

躯体は「建て逃げ工法」で施工。①事務所エリアのある中央部分からスタート。クレーンも綿密に計算して配置した②東西方向へ進む③上棟時の状態
躯体は「建て逃げ工法」で施工。①事務所エリアのある中央部分からスタート。クレーンも綿密に計算して配置した②東西方向へ進む③上棟時の状態

 工事ステップのアイデアは秀逸だが、それが実際に施工可能かどうかの検証は簡単なことではない。着工後、続々と配属されてきた所員たちが手分けして詳細を詰め、建築本部デジタルプロダクトセンター(DPC)に3Dデータを作成してもらい、BIM上で何度も検証を重ねたという。DPCとのやりとりを担当した小林大介工事課長は、「これだけ大規模な現場になると、2次元の施工図だけではどうなっているのかよく分かりません。BIMで角度や位置を動かしながらクレーンの機種や建方の順番、複雑な基礎配筋の納まりなどを確認できて助かりました」と話す。

 「計画通りにうまく施工できたのは、営業・設計・施工の各セクションの知恵と努力、さらに三者が一体となって取り組んだ賜物です」と沼澤所長は振り返る。

職長会と力を合わせて
発注者の期待に応える

 沼澤所長の掲げる作業所スローガンは「風通しの良い、誰からも愛される作業所をつくる!」。その言葉通り、現場全体が活気に溢れていた。

 発注側の皆さんは「プラネット南関東・厚木支店」と同じ顔ぶれで、沼澤所長率いる作業所メンバーとは厚い信頼関係が構築されている。作業所は、小林課長をはじめ中堅社員が脇を固め、若手社員も皆いきいきとした表情で働いている。

 「ここまで工事がスムーズに進んでいるのは、職長会の存在が大きい」と沼澤所長は笑顔で語る。さまざまな活動に積極的に取り組み、現場を盛り立ててくれている。現場を案内してもらったときも、職長たちに気さくに話し掛ける沼澤所長と所員たちの姿が印象に残った。

 「人の輪」がけん引する工事は、来年1月末に竣工引き渡しを迎える。

集合写真

(2024年7月19日取材)

輪が力なり!
職長会の強力サポートで現場が回る

 本作業所には、有能な技能者たちが集結している。彼らを束ねているのが、トラスコ職長会「風凛会」だ。

 会長を務める山崎組の竹田秀俊さんは、「この現場は職長同士、とても仲がよく、他の工種と作業が被っても、お互い譲り合っています」と話す。「沼澤所長や小林課長はいろいろと助言してくださり、私たちの意見にも耳を傾けてくれます。コミュニケーションはばっちりです」とも。

 職長会では「輪が力なり!」をスローガンに掲げ、現場の求心力を高めている。安全パトロールや熱中症対策、懇親会や上棟式の準備など、さまざまな場面で所員を強力にサポートしてくれる、頼りになる存在だ。

Tポーズ(※)を決める職長たち(左から竹田さん、浅沼さん、佐藤さん)。腕には「輪が力なり!」のスローガンが内側に書かれたリストバンド
Tポーズ(※)を決める職長たち(左から竹田さん、浅沼さん、佐藤さん)。腕には「輪が力なり!」のスローガンが内側に書かれたリストバンド
※トラスコと当社の頭文字「T」ポーズが現場のお決まりだ!
職長会が中心となってバーベキュー大会を開催。発注者を招いて所員とともに親睦を深めた 熱中症パトロールでは、水分補給を勧めている
左)職長会が中心となってバーベキュー大会を開催。発注者を招いて所員とともに親睦を深めた
右)熱中症パトロールでは、水分補給を勧めている

Voice

Voice 今までに現場で言われた、心に残るひと言

新人時代に言われた言葉を今も戒めにしています

渡部 達也 工事課長代理

 「一生懸命だと知恵が出る。中途半端だと愚痴が出る。いい加減だと言い訳が出る」。新入社員の頃、所長に教えてもらった言葉です。アイデアが出ないとき、愚痴が出そうになったときなど、思い出して自分を戒めています。この現場では、新しい工法で建方が思い描いた日数通りのサイクルに乗ったときに、やりがいを感じました。

叱ってくれた所長のひと言が今では私への合言葉

木下 航輝 工事係

 鉄骨と躯体を担当していたとき、クレーンの使用調整がうまくできておらず、沼澤所長に「真剣にやれ」と叱られました。自分の工区のことしか見えていなかったので、現場全体を真剣に見ろ、と教えてくれたのだと思います。今では私への合言葉のようになっていて、職人さんたちからも「真剣にやれ」といじられたりしています(笑)。

真似するだけでなく、自分流の仕事の仕方を見つけたい

髙橋 明日香 工事係

 新入社員の頃、かっこいい女性の先輩がいました。「私もそうなりたい」と思っていたら、所長に「真似するのではなく、先輩のいいところを自分なりに変えて取り入れなさい」と助言されました。今の現場では外装を担当しています。まだまだ「自分なりの仕事の仕方」を模索中ですが、この言葉を忘れずに日々、がんばっています。

自分でやってみて初めて分かった職人の技

岩田 悠作 工事係

 「まずは自分でやってみる」。沼澤所長からの言葉です。職人さんの作業を実際に自分でやってみると、水替え一つでもポンプにホースを付けるのが難しかったり、搬出ルートを工夫しないと溢れてしまったり。職人さんの技術の高さや大変さを実感しました。職人さんに寄り添って指示を出せるようになるには、自ら体験して作業を知ることが大切だと思います。

工事概要

工事名称 トラスコ中山(株)プラネット愛知新築工事
発注者

トラスコ中山(株)

設計・監理・施工 当社
工期 2023年7月1日~2025年1月31日
建築面積

25,583.97m2

延床面積

89,652.99m2

構造

S+RC造(ユニーク構法)免震構造(基礎免震、一部柱頭免震)

階数

地上4階

所在地 愛知県北名古屋市