東京支店 王子給水所(仮称)配水池築造工事作業所






当社JVは今、東京都北区において都内の安定給水の要となる王子給水所(仮称)配水池を施工中だ。団地に隣接した狭隘な敷地の中でDXにより、ニューマチックケーソン工法の進化をけん引する作業所を訪ねた。
Photographs by Koshima Yukiko






災害時にも安心な2系統化の
ラストピースとなる給水所
東京メトロ南北線・王子神谷駅から地上へ出ると、目の前に大きな団地が立ち並んでいる。そのすぐ真横の敷地で進むのが東京都水道局・王子給水所(仮称)の建設だ。

東京23区東部の北側地域は、金町浄水場からの1系統で給水してきたが、配水区域が広大で、災害時などに断水や濁水の影響が広範囲に及ぶ恐れがあった。そこで水道局は、配水区域を分割し、区域ごとに給水所を整備するとともに、三郷浄水場を加えて2系統で配水する計画を立てた。
昭和50年代から段階的に配水区域を5つにブロック分けし、4カ所の給水所の整備を進める。ラストピースとなるのがここ王子給水所だ。完成すれば、北区、荒川区及び足立区の一部の約26万人分の安定給水が確保されることになる。
敷地内に配水池と送水管を施工する本事業で、当社JVは配水池工事を担当している。「巨大な鉄筋コンクリート製函体を『ニューマチックケーソン工法』で築造し、地中に沈設します。同工法による掘削面積は当社では最大、全国でも4番目の規模。完成後は約5万m3の水を貯められます」と後藤修二作業所長は語る。

開削工法ではなくニューマチックケーソンが採用された最も大きな理由は、施工場所の地盤の状態と周辺環境に配慮することにあった。「開削の場合、山留めのために連続地中壁を構築しなければならず、不安定な地盤では難度も増します。しかし、ニューマチックケーソンなら山留めは不要となります」と後藤所長。ただし、団地に囲まれた敷地は狭く、ケーソンの周囲はほとんど余裕がない。最大の難関は、狭隘な施工ヤードの対策だった。

「掘って、沈める」
ニューマチックケーソン工法とは!?
ニューマチックとは『圧縮空気を用いた』という形容詞。ケーソンは箱状の構造物を指す。つまり、ケーソンの底のケーソン作業室に圧縮空気を送り込み、乾いた状態で土を掘りながら、徐々に躯体を沈下させていくのが、ニューマチックケーソン工法だ。
原理は、洗面器を伏せて湯船に沈めても、空気で満たされた洗面器の中には湯が入ってこないのと同じ。地下水に悩まされずに都市部など敷地の狭い場所での施工も可能になる。

3階建て作業構台を設け狭隘な敷地を克服
作業所ではまず、敷地の点群測量データと構造物の3次元CADデータを組み合わせ、機械や仮設物の配置と車両の動線を、平面だけでなく空頭(くうとう:高さ)まで含めてシミュレーションした。
その結果を参考に、躯体の周囲に3階建ての作業構台を設置。車両は1階、作業員の通路と詰所は2階と動線を分け、3階に資材置き場とケーソン設備を配置した。「人と車両の接触を回避し、安全を確保しました。作業員も1階に降りずに詰所からすぐ現場へ行くことができて便利です」と後藤所長は胸を張る。

さらに土砂ピットで用いるバックホウをスライド移動させる電動台車を開発したり、コンクリートポンプ車をディストリビューター(打設用のブーム機能を備えた機械)に変更して、車両動線を確保するなど、さまざまな工夫でヤードの狭さを克服した。

カスタマイズしたアプリが
土砂の管理に威力を発揮
この作業所の特徴といえるのが、施工プロセスのDXに果敢に挑戦していることだ。
要となったのは、現場内のヒト・モノ・コトのあらゆる情報を一元管理するプラットフォーム「T-iDigital® Field」の活用だ。「土木本部土木部DX推進室の協力のもと、私たちの要望に沿った施工支援アプリをカスタマイズしてもらいました」と後藤所長。盛り込んだアプリは、作業員の入坑管理や圧気管理、ダンプの運行管理など7種類に及ぶ。中でも「ケーソン土砂の排土管理アプリ」は、絶大な威力を発揮した。
ニューマチックケーソンの施工では、地上で鉄筋コンクリートの躯体をつくりつつ、地下では作業員ないし掘削機(ケーソンショベル)が土を掘り、数十㎝ずつ躯体を沈下させていく。材料・排土の搬出入が錯綜しないよう、躯体構築と排土・沈設の工程を昼夜で分けるのが一般的だが、ここでは近接する住宅に配慮し、夜間工事をしていない。「躯体構築と排土の両方を日中に行うためには、コンクリートポンプ車や土砂搬出のダンプトラックなど、工事車両のスムーズな出入りが重要で、本アプリはその管理に不可欠なアイテムです」と後藤所長は言う。
ケーソンの地下で掘削した土砂は、「マテリアルロック」と呼ばれる立坑から地上へ引き上げ、ホッパーにためる。ホッパーが容量いっぱいになったら、ダンプに移して搬出するが、従来、ホッパー内の土砂量は目視で確認していた。今回、技術センターが開発した排土管理アプリでは、8基のホッパーにセンサーを取り付け、「どのホッパーにどれだけの土砂がたまったか」をタブレット端末でリアルタイムに確認できる。「いちいちピットまで見に行かなくてもいい上に、土砂量が正確に把握できるので、ダンプ配車の効率が目覚ましく向上しました」と後藤所長は語る。


さらに、ダンプ運行管理システム「it-Trucks」では、走行中のダンプの位置情報と重量情報を一元管理。「積載した土砂量は、ダンプ運転手がQRコードを読み取り機にかざすだけで、台貫(車両ごと積載量を測定する秤)で自動的に計測・記録されます。これを検査書類として出力することで約2万4千枚もの伝票作成が不要になりました」と浅利誠也工事課長代理はその効果を説明する。
若手社員に伝える安全と品質の大切さ
本工事では、ケーソン底部の掘削についてもデジタル化を進めている。地中のケーソン作業室内の掘削作業は地上の管理室でオペレーターが遠隔操作するが、ケーソンショベルにセンサーを取り付け、掘削すべき箇所を3Dモデルとして可視化したことで、かつてのような熟練の技には頼らずともよくなった。作業所ではさらに、AIによる掘削と排土作業の自動化に向けた実証実験も行っている。


ここが7件目のニューマチックケーソン現場だという吉澤崇幸統括所長は「地上で重機操作ができるようになって、オペレーターの作業環境は格段に良くなりました。今後、どんな土質でも無人で掘削できるようになれば、さらに安全性と効率が向上します」と、技術の進化に意欲を示す。
施工現場のDX推進は、当社だけでなく建設業全体の課題だ。その最先端をいくこの作業所では、吉澤統括所長と後藤所長のもとで多くの若手社員がアイデアを出し合う。各自が「自分が現場を回す」という気概を持って仕事に取り組んでいるという。後藤所長は「10年後に大成建設を支える若手社員に、安全と品質の大切さを伝えたい」と思いを語る。
工事は2024年9月下旬現在、躯体が全13ロットの中10ロットまで構築できたところだ。2025年11月の竣工に向けて、高気圧下でのケーソン設備解体などの作業が控えており、気が抜けない。発注者の東京都水道局からも、「引き続き、持っている高度な技術力・現場力を存分に発揮し、水道事業に貢献していただきたい」と激励されている。
この工事で磨いた技術と知恵は、ニューマチックケーソン技術の新たな扉を開くに違いない。
(2024年9月25日取材)

100人と共につくる「100年インフラ」
高尾 紘典 工事課長代理

取り合い調整がうまくいきトラブルなく終了できた瞬間
渡邉 拓哉 工事係

後輩女性たちに憧れられる技術者でありたい
高山 知大(ちひろ) 工事係

1年目で任された仕事をやりきったとき
内田 貴大(たかひろ) 工事係

工事概要
工事名称 | 王子給水所(仮称)配水池築造工事 |
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発注者・設計者 |
東京都水道局 |
関連コンサルタント | 日本水工設計(株) |
施工者 |
当社・岩田地崎・関電工建設共同企業体 |
工期 |
2017年2月17日~2025年11月6日 |
主要工種 |
配水池築造(ニューマチックケーソン)有効容量50,000m3・有効水深22.0m、刃口金物据付工、掘削工、地盤改良工(静的杭締固め砂杭工)一式、鉄筋コンクリート工、躯体防水工、埋戻し工 |
所在地 | 東京都北区 |