関西支店 2025年日本国際博覧会 施設整備事業 大催事場作業所







4月13日の開幕に向けて、急ピッチで建設が進む「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」会場。当社が施工中の5施設のうち建築家・伊東豊雄氏の設計で話題のEXPOホールの現場の様子をレポートする。
Photographs by Kawamoto Seiya







いよいよ完成へ!
EXPOホール「シャインハット」
車が万博会場のある大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)に入るとすぐ、金色の大庇が目に飛び込んできた。施工中のEXPOホールだ。取材時(昨年12月中旬)すでに躯体は全容を現わしており、「シャインハット」の愛称どおりきらきらと光り輝いていた。

今回の万博で当社は「EXPOホール」「よしもと waraii myraii館」「マレーシアパビリオン」「EARTH MART」「物販棟」の5つの施設の施工を担当。それぞれ竣工を目指して邁進しているところだ。

このうち最も規模が大きいのがEXPOホールで、収容人数は約1900人。360度の映像投影ができる円形ステージを備え、開会式をはじめさまざまなイベントが行われる。
建物はホール棟と楽屋棟からなる。ホール棟は円錐(正確には40面体)の頂部を切ったプリンのような形状で、その上に端部が反り上がった皿のような大屋根が載る。屋根の直径が67m、床の直径は62m、最高高さは20.8mだ。

中原潔人作業所長は「私をはじめ全員が、このように特殊な形状の大空間の施工は初めて。計画段階から建築本部、設計本部と連携し、手厚いサポートを受けながら一歩ずつ進めてきました」と話す。
卯野和紀工事課長は「ホール棟工事のポイントは『フレームを自立させる鉄骨建方』『工程ロス削減による工期短縮』『美観を損なわない天井仕上げ』の3つです」と説明する。
中央にそびえるベントでトラス梁を仮受け
1つ目のポイントである鉄骨建方の課題は、この独特の躯体形状に由来する。外周の鉄骨柱を垂直ではなく斜めに建てなければいけないため、自立させるのが難しいのだ。屋根のトラス梁を設置する際にも、その荷重で外周部にゆがみが生じる懸念があった。
「当初は半工区ずつ、柱を固めて屋根トラスも半円で施工する計画でした。ところが詳細に応力計算してみると、分割施工では荷重が偏って不安定になり、うまく自立しない可能性もありました。そこで、さらに検討を重ね、先にぐるりと1周、柱を建ててから屋根のトラス梁を施工していく手順に変更しました。こうすると、『リング効果』によって柱同士が互いに支え合い、安定するのです」と中原所長は説明する。

同時に、円の中心に1本の大きなベント(支柱)を建てておき、地組みした屋根のトラス梁をリング部分とベントの両方で受け持たせながら、クレーンで設置していくことにした。「ベント工法」は、橋梁の架設工事や今回のような大空間建築の大屋根構築に用いられる。



鈴木駿工事課長代理は「鉄骨建方のトラス梁のラストピースがうまくはまったとき『我々の計算は間違いなかった、今後もうまくいく!』と確信できました」と、緊張が続いた作業の日々を振り返る。
吊り足場を活用して
天井と段床を効率的に施工
2つ目のポイントである工期短縮に寄与したのが、天井の施工を行うための吊り足場だ。
施工難度の高いこれだけの大空間でありながら、工期はわずか15カ月。2月末の完成引き渡しには、何としても間に合わせなければならない。そのためには、客席部分の段床のRC造躯体工事を、天井の仕上げ工事と並行して進める必要があった。
「通常のように、床に大量の天井足場用支柱を組んで天井仕上げを施工したのでは、段床の工事に着手できず、到底間に合わないので、入手時の計画時点で屋根のトラス梁から『吊り足場』を下げて天井を施工することにしました。これなら、床のスペースは空いているので、段床の工事をスムーズに進められます」と中原所長は言う。
吊り足場の荷重支持にもベントは役立ち、さらに天井の資材を運ぶためのエレベーターを取り付け、何重もの効率化を図った。

美しい天井のため開口部の閉合にも一工夫
3つ目のポイントは、天井の仕上げに関する工夫だ。ホール棟の天井の仕上げは、四角い金箔風のクロスを重ねて貼ったような荘厳なイメージ。天井ボードに金箔風のクロスを貼った後、吊り足場のチェーンを外し、開口部を塞ぐことになる。その部分が悪目立ちしては台無しだ。
「天井を美しく仕上げるには、開口部をどう閉じたら良いか。そこをかなり悩みました」と鈴木課長代理は振り返る。
皆で知恵を出し合い、1つのアイデアが浮かんだ。それがユニットバスの天井によくある、アルミの枠がないフレームレスの点検口の採用だった。これなら天井面とフラットに仕上がる上、四角いパネル状の蓋なので、周囲との差が目立ちにくい。伊東豊雄建築設計事務所からも了承を得ることができた。
活気溢れる若手たちがチーム力を発揮
この作業所では、要となる中原所長とベテランの卯野課長を除き、技術系社員5人全員が20代、30代だ。 中原所長は、若手社員がストレスなく、楽しく積極的に仕事に取り組める雰囲気づくりに力を入れている。若手の指導方針について「押し付けずに、何事も各自のやる気に任せています。達成感は、自発的に行動してこそ得られると思うからです」と話す。
資材ヤードが少なく、ほとんどの作業をホール棟内で行わなければならない現場条件にあって、若手たちは期待どおり、テキパキと段取りの調整を進めているという。
若手チームのリーダーである鈴木課長代理は「万博会場の建設に携わることは特別な経験。がんばって良い仕事をしよう!と話しています」と笑顔を見せる。
万博会場内では、多くのゼネコンが同時に工事を進めている。道路使用の調整など他社との交渉を担う卯野課長は「各社それぞれに工事の流儀があって面白い。施工の展示会場のようなもので、若手にとっても勉強の機会になると思います」と話す。
世界各国の英知が集まるとともに、国際交流の場ともなる国際博覧会。国を挙げて万博の成功を目指すこの機会に、当社が貢献することの意義は大きい。中原所長は「このホールでオープンセレモニーが行われるのは光栄なこと。竣工まで気を抜かず、だが張り詰め過ぎずに、和を持って駆け抜けたい」と力を込めた。
(2024年12月13日取材)

材料と施工の工夫で“手仕事感”を表現
建築家・伊東豊雄氏は、EXPOホールの設計にあたり、日本と世界の間で情報を受発信する「パラボラアンテナ」をイメージしたという。屋根の金色は、1970年の大阪万博のシンボル「太陽の塔」の最上部の「黄金の顔」を意識した。その設計意図を受け、作業所では軒天が凸凹に打ち出された金属のように見える方法を検討。工場で金色のフィルムを貼ったパネルを現場で施工する際、縁を突き合わせるのではなく、少し重ねることで写真のような手仕事感のある仕上がりに。また、壁の部分は塗装の吹き付けを重ね、ザラリとした質感を表現した。こうした工夫のかいがあって、伊東氏から「イメージどおりにでき上がった」とお褒めの言葉をいただいたという。

自分の仕事が誰かの夢のきっかけになれば
太田 雄士 工事課長代理

働き方改革に余裕を持って適応ダンディーな上司に
後藤 駿介 工事主任

業務効率化を達成し私生活も充実を
草薙 竜市 工事主任

「私がつくった建物」と胸を張って言えるように
西尾 実里 工事係

工事概要
工事名称 | 2025年日本国際博覧会 施設整備事業 大催事場 |
---|---|
発注者 |
(公社)2025年日本国際博覧会協会 |
設計 | 【基本】(株)伊東豊雄建築設計事務所、(株)佐々木睦朗構造計画研究所 【実施】当社、(株)昭和設計 |
監理者 | (株)昭和設計 | 工期 |
2023年12月1日~2025年2月28日 |
建物用途 |
劇場 |
建物面積 | 6,200.05m2 |
延床面積 | 8,194.71m2 |
構造 | S+RC造 |
階数 | 地上2階、塔屋1階 |
所在地 | 大阪府大阪市 |