これからのまちづくりを支える最新技術
「都市のデジタルツイン」に注目!【その2】
2024年3月7日
大成建設が開発した都市のデジタルツイン「シン・デジタルツイン」とは-
明日のまちづくりの道を開く「シン・デジタルツイン」プロジェクト
東京都庁のお膝元である西新宿では、エリア全体での課題解決や競争力の向上を目指し、2010年にエリアマネジメント※1組織である「新宿副都心エリア環境改善委員会」が発足した。2014年にはまちづくりの担い手として「一般社団法人」として法人格を取得しており、エリア内にある19の民間企業、学校、団体等によって構成されている(2023年12月現在)。西新宿に本社を構え、発起人でもある大成建設は、発足当初から「新宿副都心エリア環境改善委員会」の事務局を務め、構成企業と連携してまちづくりを進めている。
これまで数多くの都市開発を手掛けてきた大成建設だが、培ってきたまちづくりのノウハウ、知見を活かして「わがまち」とも言えるこの西新宿の課題(オープンスペースの利活用、賑わい創出)に取り組んできた。そのような中、2020年に都市開発本部のメンバーが「わがまち」の課題解決ツールとして「シン・デジタルツインプロジェクト」をスタートさせた。
このプロジェクトは、2023年度より東京都の西新宿エリアでの先端技術を活用したスマートシティサービス実装事業「西新宿先端サービス実装・産官学コンソーシアム」(※2、※3)における「先端サービス実装分科会プロジェクト」に位置付けられている。
- ※1地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取組み
- ※2西新宿先端サービス実装・産官学コンソーシアム【オフィシャルサイト】
- ※3西新宿先端サービス実装・産官学コンソーシアム【ご案内】
建物内や地下も再現する精緻な3D都市モデルの「シン・デジタルツイン」
大成建設は、西新宿のエリアマネジメントの推進にあたって、まちづくりを支援する汎用性の高いツールとして独自のデジタルツインを開発し、デジタルツールを使ったまちづくりを開始した。
「シン・デジタルツイン」と名付けられた新たなツールは、国土交通省が主導するプロジェクト「PLATEAU」の3D都市モデルのほか、独自にオープンデータやエリア内のBIMデータ、点群データを組みあわせて構築されている。
特にレーザースキャンにより取得した点群データの活用により、建物の内部、地上の段差・勾配や地下空間までが都市スケールで精緻に再現できたのだ。
シン・デジタルツインで構築された西新宿の超高層ビル街
シン・デジタルツインで構築された都営大江戸線「都庁前」駅
大成建設が開発した、圧倒的なグラフィックと高精度なデジタル空間でのシミュレーション
「シン・デジタルツイン」は、画質、精緻さ、再現度などすべてが高品質な“圧倒的なグラフィック”に加え、ゲームエンジンを使うことによる直感的な操作性と、様々な都市のデータを可視化し、分析シミュレーションまでを一貫して行う機能を備えている。
ゲーム感覚でアバターを介して、地上や地下を歩き回ることができる他、空から街を見下ろすことも可能で、西新宿を訪れたことがない人でも実際に訪れたような感覚を味わうことができる。
また、交通、人流、時間や、日照・雨量・風速・気温などの気象データのシミュレーションを行えることから、何度でもトライアンドエラーを繰り返し、都市や街区の未来像を高い精度で効率的・持続的に企画・設計することが可能となる。
高精度な3D都市モデル「シン・デジタルツイン」による住民参加型まちづくりの促進
西新宿エリアでは、有効空地・道路空間・公園のなどの広大なオープンスペースの利活用がまちづくりのポイントになっている。そのため、空間を連続的・一体的に繋げて活用する取り組みが進められてきた。
大成建設が参画する「西新宿スマートシティ協議会」の取組みとして、2023年7月に「シン・デジタルツイン」を利用してオープンスペースの活用提案を行うワークショップが開催された。西新宿エリア周辺にお住まいの方やお勤めの方をはじめ、多様な人々が参加し、4グループに分かれて「シン・デジタルツイン」上でベンチ・ソファ、机などの配置を検討し、オープンスペースのプランニングを行った。
ワークショップでのプランニング結果は、2023年10月に開催された東京都主催イベント「FUN MORE TIME SHINJUKU 2023」において、実際の道路上に再現された。
このように初めて「シン・デジタルツイン」を利用する人でも簡単に操作が可能で、複数の関係者が共通認識をもちながら検討が進められることから、今後のまちづくりへの住民参加促進ツールとして行政やまちづくりに関わる関係企業など、多方面から大きな関心が寄せられている。
また、「令和4年度先端技術を活用した西新宿エリアにおける歩行者移動分析実証」として、株式会社GEOTRAと協業し、取得した人流データを、「シン・デジタルツイン」に取り込み、混雑箇所や時間帯別の混雑状況などを可視化した移動分析を実施した。この取り組みでは、人流データと都市データの強みを活かすことで、人流量の変化など社会実験の効果測定を定量的に把握することができ、より豊富なエビデンスに基づき、関係者での合意形成や方針検討に生かすことができた。
https://www.youtube.com/watch?v=EB9M8urYzVE
シン・デジタルツイン上で可視化された人流の様子
新たなまちづくりに貢献
西新宿エリア以外でも「シン・デジタルツイン」を活用することで、まちづくりに大きな効果を発揮できる可能性が出てきている。防災分野では、被害予測を可視化することで災害発生時への備えを促す防災ツールとしての活用、環境モニタリング分野では、大気汚染・水質管理・気候変動の監視への活用など、持続可能な社会づくりへの貢献が期待できる。
さらに学習環境面でも、教室にいながら「シン・デジタルツイン」上で歴史的な場所や科学的な現象を探究できるバーチャル体験を教材として提供可能だ。
さらに、道路空間の再編・整備案の策定においては、交通データを取り込むことで、効率的な交通ルートによる脱炭素効果や騒音低減の検証など、多角的な視点で施策を評価できるなど、「ウォーカブルなまちづくり」※4への適用も可能となる。
大成建設は、この「シン・デジタルツイン」を西新宿エリアから全国に広げ、住民参加によるさまざまな社会課題解決のツールとして活かし、新たなまちづくりに貢献していきたいと考えている。
- ※4「居心地が良く歩きたくなる」