四国支店 津島道路 新内海(しんうちうみ)トンネル工事作業所






四国を8の字に結ぶ高規格道路ネットワーク。当社は現在、その一部を形成する津島道路の新内海トンネル(仮称)を建設している。新技術を駆使するとともに数々の先進技術の実証にも力を注ぐ。進取の気風あふれる作業所を訪ねた。
Photographs by Koshima Yukiko






四国8の字ネットワークを
つなぐ長大トンネル
「アナウンスが流れたら、耳をしっかりふさいでください」。浅井伸弘作業所長に言われた通り、耳の穴に指を突っ込み、心の中で10秒前、9秒前、8、7、6…と数える。一瞬の静寂の後、バン!と炸裂音が響き、全身に衝撃波を受けた。切羽(トンネル先端部)から離れた安全な位置まで退避していても、発破の威力を体感するには十分だった。
建設が進む新内海トンネル(仮称)は、愛媛県西南部を通る津島道路の一部となる。延長は2541mで、津島道路のトンネルの中で最も長い。2021年10月に起点側から掘削を開始し、25年2月上旬現在、約3分の2にあたる1580mまで掘り進んだところだ。


- ※上記画像は全て作業所発行パンフレット『令和2-6年度 津島道路 新内海トンネル工事』より転載(一部加工)
「津島道路は内海IC(仮称)から津島岩松ICに至る延長およそ10.3kmの高規格道路(自動車専用道路)で、沿岸部を通る国道56号のバイパスとして、山間部を通るルートで計画されたものです」と浅井所長は説明する。津島岩松ICで宇和島道路に連結し、四国4県を結ぶ全長約800kmの高規格道路ネットワーク「四国8の字ネットワーク」の一部を形成。南海トラフ巨大地震などの大災害発生時には、救助活動や物資輸送になくてはならない「命の道」となる。ネットワークのうち、すでに全長の8割近くが開通しており、津島道路を含め未整備区間の完成が待たれている。
また、津島道路が開通すれば、南側の愛南町から北側にある宇和島市の第三次医療施設への救急搬送時間も短縮されることから、地元でも早期開通に期待がかかる。
山岳トンネルの基本
NATMを進化させる
新内海トンネル工事作業所の最大の特徴は、さまざまな新技術を積極的に取り入れていることだ。「新技術の導入は、試行錯誤して苦労する面もありますが、山岳トンネル施工、ひいては建設業の未来に向けた先行投資だと考えています」と浅井所長は話す。
施工法は、山をくり抜いてトンネルを通すNATM(ナトム)*だ。施工手順は、冒頭で述べたように、まず切羽にいくつかの孔を開けて火薬を装填し、発破をかける。砕け散った岩石(ズリ)を搬出した後、掘削面に一次コンクリートを吹き付け、アーチ型の鋼製支保工を建て込む。そこに二次コンクリートを吹き付けた後、内側から放射状にロックボルトを打ち込み、岩盤に締め付ける。これを繰り返しながら掘り進んでいく。最後に、防水シートを設置して覆工コンクリートを打設し表面を仕上げる。
*NATMの施工手順はこちらから。建設の“なぜ”トンネル篇Q2の山岳トンネル工法をご覧ください
https://chizu.taisei.co.jp/tech/construction/02.html
作業所が取り入れている新技術は、これら一連の作業の省人・省力化を可能とし、安全性向上にも寄与する。その一つが「フルオートコンピュータジャンボ」だ。切羽に削孔(火薬装填用の孔を開けること)する重機「ドリルジャンボ」をコンピュータ制御により自動化したもので、従来は3人で行っていた作業が1人の操作で済むようになった。削孔時間を10%短縮できる上、切羽に人が近づかないことから安全性も高まる。「従来、ドリルジャンボを使い手動で行っていた削孔が、全て自動化できれば、NATMの進化につながります」と浅井所長は語る。

もう一つの新技術は、ズリ出し用のベルトコンベアの搬送ベルトの傷情報(傷の位置、大きさ、深さ)をリアルタイムで監視する連続ベルトコンベア計測・管理システム「ベルコンスキャナ®」だ。トンネル工事にベルトコンベアを導入すると、狭い坑道をズリ出しのダンプが頻繁に往来する必要がなくなり安全だ。ただ、ズリの角が当たるなどベルトが損傷すると、復旧作業に時間と手間が掛かる。「このシステムではベルトの傷を非接触・高速・高精度に検知できるため、メンテナンスの効率化が図れ、工事の中断が防げます。データをクラウドにあげることでどこからでも確認できるようになっています」(浅井所長)。

そのほか、吹き付けコンクリートのバッチャープラントには、骨材の水分率を自動で計測し、材料変化に応じた練り混ぜを可能にする「自動入力補正機能付き表面水率測定システム」と、ヒートポンプを採用することで冬場・夏場を問わずコンクリートの練り上がり温度を一定に保つことのできる「コンクリート温度管理プラントシステム」を搭載した。
もちろん土木の現場管理システム「T-iDigital®Field」も導入。現場内のあらゆる情報を各自のデバイスで一元的にリアルタイムで確認できるようにした。
「実用化されている新技術の導入、さらに先進技術の実証と、当現場は山岳トンネル技術の貴重なフィールドになっていると思います」と浅井所長は胸を張る。
次世代トンネル技術の可能性を広げるために
同作業所では、技術センターと連携し、6つの先進技術の実証にも取り組んでおり、無人化施工に向けた高度な技術を着々と育んでいる。
- ●掘削時の発破(振動波形)を利用して切羽前方の地山状況を把握する長距離探査法「T-BEP」
- ●VR切羽観察システム「T-KIRIHA VR」(①)
- ●コンピュータジャンボのデータから切羽前方の岩盤強度分布を算出・可視化する「T-iBlast® TUNNEL」
- ●3D-LiDARによる計測システムで発破後の掘削形状を測定し、最適な発破パターンを設定する「T-ファストスキャン」(②)
- ●3D-LiDARを利用し、切羽や側壁部への吹き付けコンクリートの厚さをリアルタイムに管理する「T-ショットマーカー®フェイス、アーチ」
- ●ドリルジャンボで切羽前方の湧水圧を測定する「T-DrillPacker®Jumbo」


分からないから難しい
でもそこが醍醐味
掘削開始後、掘削土から自然由来の重金属(ヒ素とフッ素)が検出されたため、工事を中断して各方面と対策を検討した。その結果、重金属が含まれたズリを集め、遮水構造を設けた盛土内部に封じ込める対策が決定され、工事を無事再開することができた。現在も土壌分析試験を実施し、重金属の有無を確認した上で、基準値を超えたズリは封じ込め工区へ、基準値以下のズリは一般盛土工区へと分別している。
明かり工事(トンネル坑外の工事)を担当する安倍徹工事課長は「試験結果によって毎回盛土場が変わるので、どちらにも迅速に対応できるように準備をしています」と話す。一般盛土工区は他工事と近接しているため、きめ細かい調整を欠かさない。
想定外のことは、ほかにもあった。坑口から500m付近と1350m付近で、大量の湧水が発生したのだ。特に後者では、一部工事の一時中止を余儀なくされた。「切羽に導水シートを張っても、発破をかければ飛んでしまう。工事で一番苦労しているのが湧水です」と浅井所長は明かす。この地域では、瀬戸内海の環境保全のための特別措置法が適用されるため、現場から出す水量が増えた際には、濁水処理設備を増強するなど万全を期した。
地質調査の結果以上に地山が硬く、掘削が思うように進まない箇所も少なくない。「同じ山は一つもなく、教科書どおりでは対応できません。しかし課題も技術で乗り越えるのが、トンネル工事の醍醐味です」と浅井所長は前向きだ。
ベテランの暗黙知を
若手技術者に伝える
作業所では、若手技術者の育成にも力を入れている。その役割を主導するのが、トンネル10現場の経験を持つ池田一貴工事課長だ。監理技術者をサポートする専任補助者として着任した。「山が動いたとき、いかに早く正確に止めるか。それがNATMの基本です」と池田課長は語る。掘削した箇所が“動く”とは、地山がしっかりと支保されていないことを意味する。吹き付けコンクリートの強度と厚さ、ロックボルトの長さや材質、締め付け強度などさまざまな条件を検証し、迅速に対処しなければならない。池田課長は現場をチェックし、ポイントとなる箇所の写真を共有して、きめ細かく指導しているという。
監理技術者を務める刀根航平工事課長代理は「指導を受けられる貴重な機会なので、まず自分がしっかり理解して次の世代に伝えたいと思っています」と期待に応える。
浅井所長の掲げる「心理的安全性が確保された作業所」というモットーのもと、若手も積極的に意見を出し合う。安全や作業効率化への取り組みも活発だ。トンネル貫通の光に目を細める日を楽しみに、全員が気を引き締め、一丸となって工事に邁進している。
(2025年2月6日取材)
人にやさしい作業所の工夫
新技術で省力化を進める一方、働く人の安全にも万全を期している。最も警戒しているのが切羽の肌落ち(岩石の落下)災害だ。作業所では装薬時に落石防護マットを取り付ける(①)、切羽に人が近づかずに済むよう、鋼製支保工に事前に溶接金網を固定しておくといった対策をしている。さらに坑内作業エリア区分をLEDサインで明示する(②)とともに、遮断機で車両の進入を規制。台車上から壁面に防水シートを設置する際、溶着機の持ち替えが不要となるよう間隔を空けた手すり(③)を特注するなど、さまざまな工夫を施している。





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工事概要
工事名称 | 令和2-6年度 津島道路 新内海トンネル工事 |
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発注者 |
国土交通省四国地方整備局 |
設計者 | パシフィックコンサルタンツ(株) |
工期 |
2020年12月25日~2025年10月31日 |
工事延長 |
4,780m |
内空断面積 | 76.3m2 |
主要工種 | 道路土工6,420.0m3、 トンネル掘削・支保工2,536.0m、トンネル覆工・防水工2,539.6m、トンネルインバート工536.4m他 |
施工場所 | 愛媛県南宇和郡愛南町柏~宇和島市津島町上畑地地先 |