ゼネコンの都市開発~その②
ベトナム初のオール大成建設プロジェクト
「TAISEI SQUARE HANOI」から見るこれからの都市開発
2024年10月4日
注目される海外開発。大成建設も中核事業と位置付け
建設投資からみたアジア大洋州の建設業の市場規模は日本の約3倍といわれ、特にアジアにおいては、2016-2030年で約23兆ドル(年間1.5兆ドル超)という膨大なインフラ需要が存在するといわれている。国土交通省も「日本の強みのある技術・ノウハウを最大限に活かして、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むことにより、我が国の力強い経済成長につなげていくことが肝要」としている。※国土交通省「建設企業の海外展開」(2017年6月)
大成建設は、2024年度に策定した中期的に目指す姿「TAISEI VISION 2030」達成に向けた2024年度策定の中長期事業戦略の中で、グループ海外事業を中核事業のひとつとして位置付けている。2030年に目指す姿として、国内で培った技術ノウハウを活用し自らも成長しながら、質の高い社会インフラ整備により、進出国の経済的・社会的発展に貢献するとしている。
「国際事業本部」が大成建設独自の海外開発を推進
海外事業の成長に向け、2024年4月に国際支店(施工・コーポレート)・営業・開発機能を一体化し、新たに「国際事業本部」として再編。建設事業と開発事業を一つのプロフィットセンターとすることでシナジーを発現し、事業機会の拡大および安定的な収益基盤を構築しようとしている。この中の「国際開発事業部」が主体となって最適なポートフォリオの構築と安定的な開発収益を確保するための体制整備を進めている。
大成建設の海外事業の重要なポイントは、進出国との一体化にある。大成建設は、海外成長市場での現地化を推進することに重きを置きながら、大成建設が有する高い技術力による差別化・魅力ある事業体制の構築を目指している。
海外での開発においても、海外要員の育成およびローカルパートナーとの協業、現業・現地法人とのネットワークを活用することを目指している。
大成建設がデベロッパーでもある新オフィスビル「TAISEI SQUARE HANOI」
その海外開発事業のフラッグシップとなっているのが、ベトナム・ハノイに2024年5月に竣工した「TAISEI SQUARE HANOI」だ。
ロケーションは、ハノイ中心部から西側へ約8km、ノイバイ国際空港やハノイ近郊の工業団地へのアクセスが良い環状3号線に面している。
地上20階、地下4階、延床面積45,500㎡。18フロアのオフィスを有し、低層部には店舗スペース、地下4フロアには駐車場・バイク駐輪場を設置している。広々としたエントランスロビーを持ち、各階オフィスはレイアウトのしやすい無柱空間。開放的なパークビューを望むことができる、まさにジャパンクオリティを誇るオフィスビルであり、環境にも配慮した新しいワークプレイスがハノイに誕生した。
大成建設100%出資のベトナム現地法人「VINATA INTERNATIONAL Co. Ltd.(ビナタインターナショナル)」が設計・施工を、「Taisei Development Hanoi Co. Ltd.」が事業主となり、投資からオフィスビルの商品企画、運営までを担当した。つまり、開発、設計・施工、運営に関して大成建設グループが一丸となって取り組んできたプロジェクトである。
30年前にベトナムに合弁会社を設立。深くつながっていく歴史が始まった
なぜ、ベトナムなのか。海外事業において、何も足掛かりがない国には進出は難しいとされている。しかし、大成建設には30年にも及ぶベトナムとの良好な関係の歴史があった。
1986年頃からベトナムで進められていたドイモイ政策のもと、大成建設にもベトナムの合弁企業に入ってほしいという要請があった。そこで1993年、他日系ゼネコンに先駆け、ベトナム建設省傘下の国営総合建設会社である「ビナコネックス」との合弁会社として現地法人「ビナタインターナショナル」を設立。以来、約350名のベトナム人社員と共に、主に日系及び外資系企業の工場、ビル、事務所、教育施設等の新築、増築、リニューアル工事など、500件近くの建設工事に携わってきた。さらに日本国政府ODAを通じ、大成建設として空港・橋・道路等、土木・建築両分野におけるベトナムでの多様なインフラ整備に貢献してきた。このように30年にも及ぶベトナムとの濃密な歴史があったのだ。ビナタインターナショナルは2017年に大成建設が全ての持分を買い受けたため、現在は大成建設の完全子会社となっている。
プロジェクト用地はビナタインターナショナル発祥の地
ベトナムの土地制度では、土地は国民のもの(管理は国)であり、企業は事業用に土地の使用権を認可してもらう形式だ。海外企業は、現地子会社を作り投資事業の許可を取得しなければ、土地の使用権は取得できない。
実は、30年前にこの合弁会社「ビナタインターナショナル」を設立した際、合弁相手のビナコネックスが今回のプロジェクト用地の使用権を現物出資したため、「ビナタインターナショナル」がこの土地の使用権を持つことになった。30年前、この辺りは、まだ何の開発も行われておらず、手付かずの野原であった。しかし、この20年、ハノイの急速な成長につれ、周辺も市街地化が進んでいく中、今回のプロジェクトへの機運は高まっていった。
プロジェクトに都市開発本部のメンバーも加わり、開発計画を検討。許認可の取得を進め、ついにプロジェクトを実行することとなった。
オール大成建設による、ベトナムでも例のない画期的なプロジェクト
ハノイにオール大成建設プロジェクトが立ち上がることになる。大成建設は、デベロッパーの役目を果たすために現地法人「Taisei Development Hanoi Co. Ltd.(TDH)」を2020年に設立。大成建設が出資したTDHが事業主として現地許認可を取得し、「ビナタインターナショナル」が設計、施工という形で、このプロジェクトが進むことになる。これまで大成建設が日本で培ってきた開発のノウハウ、オフィスビル建築の技術、その両面においてその持てる力を注ぎ込み、2021年11月に工事に着手し、2024年5月に竣工を迎えた。
「TAISEI SQUARE HANOI」施工中の様子(2021年10月~2024年5月)
「TAISEI SQUARE HANOI」は、多くの日系企業の現地法人、その他は韓国・欧米・ベトナムなどの企業の入居が決定しており、2024年9月から入居開始している。2階にある管理事務所には既にTDHがオフィスを構え、現在大成建設社員4名、ベトナム人スタッフ約10名が常駐している。テナント募集はTDHが担い、その後のオペレーションも、警備・清掃・設備管理について日系の会社を活用し、大成建設の経験とノウハウを活かして日系品質のサービスの提供を目指している。
オール大成建設による本事業が、これからの海外開発の新たな指針へ
これまでの海外事業は、投資分野への参画に限定されていたり、設計・施工のみを受注したりする案件が多かったが、今回のプロジェクトでは、ディベロップメントからオペレーションまで担うという新しい形にチャレンジする開発事業となった。
大成建設は、ベトナム、台湾、アメリカを海外開発の重点国としているが、それぞれ国によって開発手法は大きく異なる。だが、今回のベトナムのプロジェクトのように、大成建設がデベロッパーにもなり、設計・施工・管理にまで関わっていくという当社主導の開発を推進することで、進出国とのより深いつながりを構築でき、持続的な発展にも貢献していくことが可能となる。この画期的な海外事業開発が大成建設の今後の海外開発事業の一つのスタイルになっていくのかもしれない。