地震対策技術はここまで進んだ!
建物と人を揺れから守る 最先端のテクノロジー

2023年4月1日

地震によって起こる「地震動」、特に大地震で発生する「長周期地震動」とは

建物を自然の災害から守るために必要な地震対策。その方法は、さまざまなものがあります。

地震とひと口にいっても、実は通常の「地震動」と大地震の際などに発生する「長周期地震動」はまったく別物。地震の周期や建物の揺れ方、伝わる範囲、影響を受ける建物が異なります。まずは両方の地震動の違いと「長周期地震動」の特徴を見ていきましょう。

通常地震動と長周期地震動の比較
項目通常地震動長周期地震動
地震動の周期 1秒以下~数秒 2秒~数十秒
建物の揺れ方 小刻みな揺れが短時間継続 揺れ幅の大きいゆっくりした揺れが長時間継続
伝播状況 減衰しやすく、震源の近くで揺れる 減衰しにくいため、揺れが遠くまで伝わる
影響を受ける建物 10階建前後の建物 超高層建物

長周期地震動とは

大きな地震の際に発生し、超高層建物をゆっくりと長く揺らす地震動のこと。
長周期地震動には、以下のような特徴があります。

  • 比較的震源が浅く、地震エネルギーの大きさを示すマグニチュード7以上の巨大地震で生じることが多く、通常の地震波に比べて震源から広範囲に伝わります。
  • 大規模な平野などの軟らかい地盤が厚く分布する地域では揺れが増幅され、長時間にわたって揺れが継続します。
  • 超高層ビルなど、固有周期(片側に揺れて再び戻ってくるまでの時間)の長い建物は、長周期地震動と共振して大きな揺れ幅で10分~数十分揺れが続く場合があるため、室内の家具などの転倒・移動や天井の損傷・落下、エレベータの障害などが発生することがあります。

地震対策のために必要なのは「耐震」「制震(制振)」「免震」の3つの要素

建物に地震対策を施す方法は、「耐震」、「制震(制振)」、「免震」の3つに大きく分類されます。
これらには、それぞれ下記のような特徴があります。

耐震(揺れに耐える)
柱や柱同士を水平につなぐ梁(はり)の間に、つっかえ棒の役割を果たすブレース(補強材)や壁を築き、建物全体の強度と粘りで地震の揺れに耐える
制震(制振)(揺れを制する)
地震の揺れを軽減させるダンパーなどの制振装置を建物の柱・梁の間に取り付け、地震や強風による建物の揺れを制御する
免震(揺れを受け流す)
地盤と建物の間に地震の揺れを伝わりにくくする免震装置を設置し、建物と地盤とを切り離す

これらの構法は、戸建住宅、マンション、オフィス、学校などさまざまな建物で幅広く採用されています。

地震対策構法別の長所・短所
構法名/特徴長所短所
耐震
  • 3つの構法の中では、建設費用が安い
  • 工期が短い
  • 比較的自由に設計できる
  • 上階ほど揺れが大きくなる
  • 家具転倒などが発生する可能性あり
  • 繰り返し揺れた際に、部品が損傷する可能性あり
制震(制振)
  • 建設費用が免震より安く、揺れにも強い
  • 維持管理が容易で機材の取換えが不要
  • 台風など強風による揺れにも対応可能
  • 制振装置を設置する場所や台数により、制振効果に影響が生じる
  • 地面近くでは揺れの影響を受けやすい
免震
  • 地震による建物の揺れを最も小さくできる
  • 建物内の家具などが倒れにくい
  • 建物の柱・梁や壁などの損傷を防げる
  • 3つの構法の中では建設費用が高い
  • 強風に対して別途対策が必要となる場合がある

具体的な地震対策の方法にはどんなものがある?

大成建設では、建物の揺れを低減する耐震、制震(制振)、免震について、下記のような構法を保有しています。地震の条件(通常の地震動、長周期地震動)、建物の新築・改修への対応など、対象となる条件に応じて使い分けることが可能です。

【耐震】に関する構法・架構
構法・架構名技術概要

格子型ブロック耐震壁

  • クロスウォール、クロスウォールメタル

工場で製作された部材を現地で組み立て、デザイン性にも優れ、短工期で高品質な施工が可能な耐震補強構法。

縦格子鋼板補強壁

  • T-Grid

縦横格子状の構造でデザイン性も重視した、鋼板パネルを用いた耐震補強構法。

強化ガラス・鋼材ブレース耐震壁

  • TG-WALL

強化ガラスを補強材であるブレース材の補剛材に用い、デザイン性に優れた透明性の高い耐震補強構法。

【制震(制振)】に関する構法・架構
構法・架構名技術概要

既存超高層建物の制震化構法(筋交い)

  • T-RESPO

超高層建物の地震時の揺れを、特殊なオイルダンパー(軸力制御ダンパー)を用いて低減でき、溶接などの火気を使用する工事も不要。柱・梁を補強することなく建物を使用しながらの設置工事が可能。

RC造高層住宅用制振構法

  • TASS-Flex FRAME

建物低層部に、強くて柔らかい部材を配置することで、『しなやかに変形する骨組み』を実現し、免震建物のように地震の揺れを受け流すことが可能で、損傷が大幅に低減。また、建物の振動エネルギーを吸収するオイルダンパーが頑強な複数の連層壁の間に設置されており、この壁が建物に生じる変形を効率よくオイルダンパーに伝達し、大きな揺れや長周期地震動による長時間の揺れ、強風による微細な揺れまで低減可能。

RC造高層住宅用耐震改修構法

  • T-レトロフィット制振

建物中央部に吹抜け空間を持つ鉄筋コンクリートで造られた高層住宅に対し、地震エネルギーを効率的に吸収するオイルダンパーと間柱を集約配置したフレームを設置するだけで補強できる、新しい耐震改修構法。長周期・長時間の地震動に対して優れた制振効果を発揮し、安全・安心な住まいを提供可能。

高性能振子式大型制振装置

  • T-Mダンパー

従来の振子式制振装置の先端中央部に設置したおもりの重量と可動量を大きくし、長周期地震動による超高層建物の揺れを効果的に低減する大型制振装置。風に比べ地震の方が建物を大きく揺らすことから、変形を大きくする必要があるため、T-Mダンパーは、従来方式の約2倍の約4mの大きな変形を実現し、建物の揺れを小さくする。

壁柱を利用した知的制震架構

  • TASMO

変形しにくい壁柱と、これをつなぐ境界梁(鋼材ダンパー)および壁柱脚部(オイルダンパー)により構成される制震架構。複数のダンパーを組み合わせ、地震のエネルギーを吸収し高い安全性を確保する。また、床や鋼材ダンパーに取付けたセンサーで部材の疲労や損傷を常に監視し、長寿命化を図る。

摩擦制振ダンパー

  • T-Fダンパー

T-Fダンパーは、高耐久性の合金を摩擦材として使用して、この摩擦材を取り付けた鋼材プレートと、間柱、梁、ブレースなどの鋼材を高力ボルトで締め付けて固定する仕組み。
地震時には、この摩擦材を取り付けた鋼材プレートがスライドすることで、建物に対する揺れを低減する。制振ダンパーと同等以上の制振性能がありながら、取り付けが容易で工期も短く、ローコスト。

極軟鋼間柱利用制振架構

  • LOYAL

一般の鋼材に比べ、早期に軟化する特性を利用した制振装置で、地震のエネルギーを吸収し、建物の揺れを低減する。間柱として柱と梁の間や、梁と梁の間に組み込むだけなので、特別な設置スペースが不要で、窓がある外周部にも設置可能。

【免震】に関する構法・架構
構法・架構名技術概要

複合免震構法

  • ハイブリッドTASS

すべり支承と積層ゴム支承という2つの免震装置を組み合わせた複合免震構法。この構法は一般的な免震装置よりも対応可能な地震周期を長く設定できる。また、すべりによる摩擦がダンパー効果を兼ねるため、通常のダンパー取り付けが不要となり、比較的安価な費用で導入可能。

免震用パッシブ切替型オイルダンパー

  • T-Sオイルダンパー

T-Sオイルダンパーは、揺れ幅に応じてダンパー内部のオイル流量を機械的に自動で切り替えて最適な減衰力を発生させる仕組みを採用。中小地震に対しては、適正な減衰力で高い免震性能を発揮させ、居住者の安心感と地震後の事業継続性を確保。巨大地震や長周期地震動に対しては、大きな減衰力に切り替わって揺れ幅を抑制することで、隣接建物や周辺擁壁との衝突を防止し、安全性を向上。

壁柱を利用した免震架構

  • TOLABIS

建物基礎の上に免震装置を設置する免震層を造り、建物外周部には水平方向に変形しにくい薄板状柱を配置する外殻構造(建物全体が固い殻で覆われているような構造)とすることで、建物内部に柱のない大きな空間を確保し、地震の揺れを低減することが可能。

【耐震】に関する補強工法・部材
工法・部材名技術概要

プレート定着型せん断補強鉄筋

  • ヘッドバー

構造物の柱、梁、壁などの鉄筋を組む際に、矩形または円形のプレートを鉄筋端部に摩擦圧接で接合したせん断補強鉄筋「Head-Bar」を用いる耐震補強工法。

後施工せん断補強鉄筋

  • ポストヘッドバー

既設のコンクリート構造物にドリルで削孔した孔内に専用モルタルを充填し、鉄筋の両端に定着性能向上のために摩擦圧接したプレートを有するせん断補強鉄筋「Post-Head-bar」を挿入して定着させる耐震補強工法。

柱部材の耐震補強工法

  • CFパネル工法

連続炭素繊維シートを2枚のフレキシブルボードで挟み込んだ CF パネルを柱周囲に設置し、接合部の炭素繊維シートに樹脂を含浸させた後、柱との間に無収縮グラウトを注入して一体化させる柱部材の耐震補強工法。

今後の地震対策はこう変わる!

今後の地震対策では、地震や建物のさまざまな情報を取り入れて、居住者や利用者が建物を有効活用することが重要です。また、昨今のSDG’sの広がりを背景に、木材の利用など環境に配慮した耐震構法を適用していくなど、より安全・安心で快適な空間を提供できるような仕組みづくりが求められます。その先駆けとして、現在実施されているいくつかの取り組みを紹介します。

トピック1:これまでの緊急地震速報に、「長周期地震動」の情報を追加

気象庁は、2023年2月1日正午から、「長周期地震動」が予想される地域に緊急地震速報を発表する運用を開始しました。下記のような4段階の階級のうち、3以上が予想される地域が対象となります。室内の家具類が動いたり、転倒したりして重大な災害を引き起こす恐れがある場合に、自ら身を守る行動に役立てもらえるよう、各人に文字情報や警報音などにより緊急地震速報を伝達することで、迅速な高層ビルの事業継続性の確保と耐震バリューアップを図ります。

階級1(やや大きな揺れ)
人の体感・行動:
  • 室内にいたほとんどの人が揺れを感じる。驚く人もいる。
室内の状況:
  • ブラインドなど吊り下げものが大きく揺れる。
階級2(大きな揺れ)
人の体感・行動:
  • 室内で大きな揺れを感じ、物につかまりたいと感じる。物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる。
室内の状況:
  • キャスター付きの家具類等がわずかに動く。棚にある食器類、書棚の本が落ちることがある。
階級3(非常に大きな揺れ)
人の体感・行動:
  • 立っていることが困難になる。
室内の状況:
  • キャスター付きの家具類等が大きく動く。
  • 固定していない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがある。
階級4(極めて大きな揺れ)
人の体感・行動:
  • 立っていることができず、はわないと動くことができない。揺れにほんろうされる。
室内の状況:
  • キャスター付きの家具類等が大きく動き、転倒するものがある。固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。

トピック2:建物の健全性を迅速に評価する「測震ナビ®

地震発生後に建物の健全性を確認することは、居住者や利用者の安全性や帰宅困難者の受け入れの可否などを判断する上で、とても重要な項目となります。
これまでは専門技術者が被災地に出向いて、建物の状況を確認・判断する必要がありましたが、当社が開発した新しい「測震ナビ®」のシステムは、建物所有者が地震発生直後に建物の健全性を簡易に評価することができる支援ツールとして今後の導入が期待されます。

システム概要(概要図)

「測震ナビ®」のメリット

  1. 1地震直後に建物に入ることなく、使用可能かどうかを数値により迅速に評価し判断できる
  2. 2建物の健全性を見える化することで、施設利用者の安全性確保や安心感が得られる
  3. 3建物が使用可能かどうかを短時間で評価できるため、その後の事業継続への移行が早くなる

トピック3:木を利用した環境に配慮したハイブリット耐震構法を適用可能

当社では、木と他の構造を組み合わせたハイブリッド構造の技術などを開発し、すでに建物に適用しています。さまざまな木造・木質構造技術を用いることで、建物の意匠性と法令で定められている構造性能を確保できます。また、国産木材の利用促進への貢献と、安全・安心で親しみや温もりを感じられる建物を提供することができます。

<具体的な例>

① 「T-WOOD® BRACE」

鋼板を斜め格子状に組んだブレースの枠内に、集成材・CLTなどの木材を配置した耐震構法です。建物のデザイン性と耐震性能の確保を両立することができます。

② 「T-WOOD® PC Beam」

集成材と工場製作したプレキャストコンクリート梁を一体化した複合梁で構造性能が向上。集成材は型枠兼化粧材としての機能を持ち、廃棄物の発生を抑えるとともに、長期間にわたり木材内部に炭素を貯蔵できる環境配慮型の建物として脱炭素社会の実現にも貢献できます。

今後、これらの仕組みやツールを活用し、行政はもちろん地域・住民・企業等による災害への備えや防災意識の向上など総合的な防災力を推進するとともに、ハード面とソフト面での対策を効果的に組み合わせることなどにより減災に取り組み、社会全体で災害への防災力の向上を図ることが重要となります。